さわやかな勇者〜崩壊した日本で金属バット片手にハンバーグを食べに行く〜

mossan

プロローグ 〜ポートサイド駅〜

伝説のハンバーグへ

「次は〜ポートサイド〜ポートサイド〜」


 僕はポートサイドに辿りついた。伝説のハンバーグのある地…サイレントヒルに向かうために。


 道中の電車内には殆ど人がいなかった。

 僅かに乗っている人も大きな剣のレプリカを持ち鎧をまとったコスプレイヤー、迷彩服に身を包みエアガンを持ったサバイバルゲームの格好をした人……変わった人しかいなかった。


 現場で着替えればいいのに、なんで最初から着替えてるんだ。恥ずかしくないのか?


 僕には疑問だった。人が少ないからといって、自分がどう見られるか気をつけるべきだろう。


 電車から降り、今度はニューポートサイドの乗り場に向かう。通勤時間帯にも関わらず、駅には人通りが少ない。彼らはスーツを着用し、足早に仕事に向かう。

 魔界への扉が開かれたというのに熱心なことだ。二十四時間、戦えますか?


「ピギャー!」


 魔物が改札口から入ってきた。律儀にSUICAを使っている。変に社会に馴染むんじゃない。


 魔物が仕事に向かう人に襲いかかる。


“ボカン”


 僕は魔物の脳天にバットを繰り出す。


 頭にバットの刻印が刻み込まれて魔物の動きが止まる。全く、日本の屋台骨を支える社会人を襲うとは不逞な輩だ。


 だが、魔物がSUICAを使って次から次に入場してくる。何ということだ。魔物の通勤時間とかち合ってしまったようだ。魔物にもSUICAを発行する日本の鉄道会社を恨みがましく思う。


 仕方がないのでバットで魔物をなぎ倒していく。僕の鍛え抜かれたヒットマッスルが魔物の骨を打ち砕く。


 十体ほど撲殺したところ、魔物が蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。まったく、厄介な奴らだ。


 先ほどの社会人を見ると今度は暴漢に襲われている。


 ヤレヤレ、社会制度が働いてるのかいないのかよくわからん。


 僕は社会人に絡む暴漢に近づき、止めるように説得する。しかし、僕の言葉に激昂した暴漢がナイフを取り出した。


 正当防衛成立……


 そう思い、バットで暴漢の腰をシコタマぶっ叩いた。暴漢が声も出せずにもんどり打つ。


「コラー! ケンカスルナー」


 騒ぎを聞きつけ、よだれを垂らした焦点のはっきりしない警察官が駆け寄ってくる。


 僕は正当防衛を主張するとともに暴漢が社会人を襲っていたことを説明した。


「ナニ! コイツハワルイヤツカ! ヨシ、シケイ!」


 警察官が暴漢の頭を拳銃で二、三発撃ち抜く。おいおい、警察官が死刑にしちゃまずいだろ。司法制度はどうした。


 でも、面倒なので黙っておく。


「ゴキョウリョク、カンシャスル!」


 警察官の敬礼に僕は同じく敬礼で答える。この人もあの時からおかしくなってしまったのだろうか?


 ポートサイド線のホームで電車を待つ。


 電車を待つ間、なんでニューポートサイドに行くためにイーストゴッドリバーに止まるのか考えていた。

 直通便もあるにはあるが、出会うことが稀なため、僕は毎度毎度、イーストゴッドリバーで降りていた。


 以前、待ち時間の間、いつも蠱惑的に僕を誘う立ち食い蕎麦屋に立ち寄ってみた。

 普段なら通り過ぎるだけの蕎麦屋に意を決して入ったのだが、蕎麦を待つ間、電車が行ってしまった。自分のミスとは言え、そのようなハニートラップを仕掛けるイーストゴッドリバーが嫌いだった。


 物思いに耽る僕に電車にいたコスプレイヤーが話しかけて来た。


「お前、ニューポートサイドに行くのか? もしかして新幹線に乗るつもりか?」


 僕は“そうだ”と答えた。


 すると、コスプレイヤーが深いため息を吐いて僕に忠告して来た。


「新幹線は止めておけ。あそこは四天王の一人、アスタルテが守っている。そんな棒切れじゃ無理だ。あいつはこの“魔剣デュランダル”でしか倒せん」


 厨二病と呼ぶにはコスプレイヤーは年が入っていた。


「あいつは仲間たちの仇……命に代えても倒す。だが、相手は四天王。私の命を燃やしても勝てるとは限らん……」


 このコスプレイヤー、痛々しいな。


「先ほどの駅で見たお前の戦いぶり……もし…もしお前が協力してくれるならば、僅かながら勝機が高まる」


 コスプレイヤーに先ほどの魔物や暴漢とのやりとりを見られていた。魔物はともかく、暴漢のあれは正当防衛だから、大丈夫! のはず……頭がイかれた警察官も僕を信じてくれた。


 だが、頭が正常な警察官に対してはどうだろうか? 少し不安になって来た。


「無理を承知で頼みたい。力を貸してくれ!」


 コスプレイヤーが自分を見つめて来た。さっきのあれ、過剰だったか…でも、武器を持った相手だからなぁ……自信がなくなってきた。僕は男から脅しを掛けられている気になった。


 後々、警察にタレ込まれても面倒だ。仕方がないから、コスプレイヤーの頼みに付き合うことにする。どうせ目的は新幹線だ。四天王とやらとはいずれぶつかる。


 だが、四天王……今まで出会った魔物は貧相だったが、変な肩書きがあるソイツは強そうに感じる。大丈夫だろうか。


 いざとなったらコスプレイヤーを残して逃げよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る