繁茂する破壊

 先に気が付いたのは自称そこそこ天才だった、否、正確に言えば自称そこそこ天才の計器だった。

 「なんだこれは?いや、そもそもこれは……」

 手に持っていたそれに向ける表情は怪訝なそれ、そして眉を顰めていた。

 愉快ではない事柄を知らせるものだった。

 「どうしたんですかジーニアスさん。」

 シェリー君は何かが気になるのか首を傾げながら周辺の琥珀を見ていたが、自称そこそこ天才の表情を見てそちらに向かいつつ警戒態勢、つまり自称そこそこ天才から貰った新型H.T.を身に纏っていた。

 そして、それは大正解だった。

 異常な堅牢さが一番の特徴たるこの近辺の琥珀。今まさにシェリー君達を取り囲む様にあるそれが急に、何の予告も予兆も無く砕けた・・・

 岩が砕ける様な音と共に琥珀のあちこちに亀裂が入り、砕けた破片が時に飛び散り、時に降り注いでくる。


 『身体強化』


 異常事態故に後手に回った。だからこそシェリー君は冷静だった。

 後手という不利を既に手にしている状態で更に混乱という不利まで手にしては文字通り打つ手が無くなる。

 現状最悪が停滞である事を瞬時に把握し、新型H.T.を起動して全身を鎧の如く覆い、身体強化を最大出力で発動。その状態で自称そこそこ天才の元へと速度を殺さぬまま駆け寄り、体当たりをする様な形で強引に抱き抱えながら元来た道を全速力引き返していった。

 自称そこそこ天才の光源が遠ざかると共にシェリー君達の居た場所は元の闇へと沈んでいった。



 躊躇わずに逃げた。故に最悪の事態・・・・・は免れた。

 二人が悠長に後手に回ったまま静止していたら、今頃穴だらけになり過ぎて肉片へと変わってしまった二つの死体が割れた琥珀の地面に散らばる事になっていたのだから。

 光が遠ざかり闇に沈む寸前、霧の中でシェリー君を襲ったものと同質のそれ・・が先程までシェリー君と自称そこそこ天才が居た場所を堅牢な琥珀諸共貫いているのを私だけが見た。

 さて、面白い事になってきた。


 ミリー=ドゥムシンは自分の知らない魔法を空に向けて放った。

 村の人間はそれに対して何も思わなかった。

 オーイは自称そこそこ天才の家の機能を使って半ば遊んでいた所で鳴り響いたアラームで腰を抜かした。

 自称そこそこ天才は手持ちの計器が示した数値で異常を感じた。

 シェリー=モリアーティーは魔法自体に気付きこそしなかったが、直後の異変に一早く対応した。それでも、その魔法が何を目的としているか解らなかった。


 空へ放たれた魔法の本質には気付かなかったが、魔法の後に起こった出来事は誰もが理解出来た。そして、理解しながら理解を拒んだ者も多く居た。

 世界の終末。その欠片の如き光景が目の前に広がっているのを、理解はしたくなかったから。

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