この琥珀のさき

 自称そこそこ天才が灯りを強くする。

 光に照らされた琥珀が光の一部を反射し、あるいは通り抜けてその幻想的な輝きで我々の周囲を満たす。

 琥珀、あるいはアンバー。

 これがどんな代物かを端的に表現すれば、『古代の樹脂の化石』だ。

 そして、これは一般的には宝石とも化石とも……とも扱われる代物でもある。

 だから、今我々が居るここは滅多に見られない規模の化石の山、あるいは何処を掘っても宝石に当たる巨万の富を秘めた巨大鉱床と考えても良い訳だ、本来は・・・

 魔法の無い世界での琥珀は宝石であり、化石であり、虫除けにも使われる工業製品の材料でもある。が、ここは違う。魔法の有る世界だ。

 そして、ここの琥珀はこの世界においても一般的な琥珀と違い、加工が困難な程の異常な堅牢さを誇る。

 「…………ふむ。」

 周囲に目を向ければ琥珀、琥珀、琥珀、琥珀、琥珀、琥珀、琥珀。

 空間は奥まで続き、その全てが照らされている訳ではない。

 だが、自称そこそこ天才の灯りが僅かに届く場所から僅かに輝く琥珀の光。

 続く空間には未だ照らされていない琥珀が、数多ある。




 問題だ。

 例の自称植物学者は明らかにこの空間で何かを行っていた。もっと言えば、何かしらを採取していたと考えられる。

 あの男が持っていた工具は木に穴を空けるために持って来た訳ではなく、そもそもここで使うために持ってきたと見るのが自然だ。

 それが証拠に先程から照らされている琥珀の壁には明らかに過去何かが埋まっていた・・、そして今はくり抜かれて空白になった部分があった。

 そして、幾つかの琥珀の表面には人為的に刻まれた事が分かる新しい、そして小さく浅い傷があった。

 この近辺の琥珀は地上にも転がっているが、あの村の状態を知っての通り、市場価値は無い。

 私の知る琥珀としての用途では使われない。魔法前提の用途……でもない。それ以外の用途は……無い事もないが、個人が採取してどうこうするものでもない。


 果たして何を目的としてここに潜っている?この琥珀に一体何がある?

 私の気付いていない価値や意味がまだここにあると?

 ここは今までにない感覚がある、今までにないものが。

 それを私は、理解出来ずにいる。

 そして私は、それを警戒しているが、同時に冷静でもある。

 奇妙だ。




 「おっと、面白いものが見えた!」

 人の思考を遮るように自称そこそこ天才がフラフラと徘徊し、明かりに照らされた琥珀の中に面白いものを見付け、それに吸い込まれる様に奥へと進んでいった。

 「じ、ジーニアスさん⁉」

 それを追いかける様にシェリー君も奥へと進んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る