被害者は盗賊とも言える

 イタバッサは戦闘力が絶無である。魔法戦闘とか物理戦闘とかいう限定的なものではなく、戦闘全般が弱い。その辺の10代前半の小娘の平手打ちで伸びてしまう程に弱い。だから当然ナイフを持った一般人よりも弱い。武装した荒くれ者達とは比べるべくもない程に弱い。モラン商会の武闘派面々(元殺(逃)し屋二名・傭兵二名)よりも凄まじく弱い。シェリー=モリアーティーやフィアレディーよりも異次元で劇的で凄惨に弱い。魔法や道具が使えない訳ではないが、戦闘に関する反射や咄嗟の判断能力が欠如している。最早絶望的な呪いの様なものだ。

 だから彼が傭兵や魔道具職人や逃し屋ではなく商人になったのは当然の帰結なのだが、問題が起きた。

 商人とは物を売買する事を生業としている者の事。勿論戦闘で稼ぎをする職ではないが、戦闘技能が必須になる。

 そう、例えば山賊や盗賊、暴徒と化した一般市民から商品や稼いだ利益、何より命を守らねばならない。

 さて、ここで問題だ。

 イタバッサという商人は脅威連中・・・・にとってどう映るか?戦闘能力絶無で利益をしこたま抱えている良過ぎる程のカモだ。

 しかし、イタバッサは有能な商人。利益や商品を奪われる様なヘマをしないから有能な商人足り得る。

 サイクズル商会の頃は会長が裏で手を組んでいたというのもあるが、イタバッサは独自に商人としての情報網を応用して足抜けを望む賊に、足抜けの手法や抜けた後の職に身分に物品と……自分が用意出来る、相手にとって価値あるものを提示して引き込み、賊側の情報とコネクションを引っ張り出して賊に一切遭遇しない様にルートを作成して切り抜ける事が出来た。

 そして、一部の咄嗟の犯行をしでかす賊に対しては、少し怖い目を見せて大人しくさせる様にしていた。


 例えば、今自分が扱っている商品が『とある組織のトップ』からの依頼で運んでいる物騒な代物だと囁いてみたり、危険な商品をわざと渡して絶対に真似してはいけない使用方法をわざとさせて非道い目に遇わせてみたり、自分を敢えて餌にして賊を釣り上げて丁度警備官の巡回ルートとカチ合わせてブタ箱送りになるか正式な契約書を交わして自分のビジネスパートナーを迫るという方法も取っていた。


 そして今回の場合、建設部門の精鋭は盗賊に囲まれていた。が、その盗賊は絶賛警邏中の警備官に囲まれていた。

 今正に盗賊達は二択を迫られていた。

 『モラン商会と契約を結んでこの場を逃れるか?』・『警備官にこのまま連行されてブタ箱に突っ込まれるか?』その二つであった。

 「どうしましょうか?」

 「契約します。」

 賊の心が折れた瞬間であった。

 「あ、警備官の皆さん、もう大丈夫です。彼らはスルーして構いませんよ。」

 手慣れた感じでイタバッサ達はスバテラ村へと向かう。

 道中で加わった用心棒と一緒に、である。

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