狩りと商業は派手に


 マイナスを除去しても、それはプラスではなく『0』だ。

 この村の風評被害というマイナスを除去したら何が残る?復興か?違う、廃村0が残るのだ。

 曰く付きの廃村が曰くの無い廃村になるだけなのだ。

 この村の立地自体は悪くない。人と物の集結する地点を繋ぐ主要街道のすぐ側にある村。そこに宿があれば都合が良いと商人が思う場所に丁度宿がある。それはプラスだ。非常に大きなプラスだ。だが、それ以外にプラスとなる要素がこの村には無い。

 確かに、森の風評被害は甚大なものであった事が解る。この村に続く道が確かに消えていた。だが、それにしてもこの村の衰退具合は著し過ぎる。

 孫娘の話によれば、あの村の元々・・はそこそこ意匠を凝らした宿泊施設だった現廃墟は、わざわざこの辺の武骨で頑強な木材を敢えて使わずに建てたという話だった。

 折角頑丈な材木が近くに文字通り売る程有るのに見目を気にして他から手間と金をかけて木材を取り寄せる事が出来ていた。

 元々それだけの資金があって宿泊施設を駆使して経済を回していたのが、たかが数年前の出来事であっという間に瓦解して廃村寸前に……不自然だとは思わないかね?

 街道は直ぐそこに有る。風評被害があってもそれは変わらない。問題の中核となっているのは村と街道の間の森だけ。村を捨てて別の場所へ移住……とまでは出来ずとも商売の手段は幾つもあった。それまでに稼いだ分の余裕は本来有る。本来致命的ではないが、今のこの状況は致命的が過ぎる。


 なぜこうなったのか?この村は宿泊業に依存して胡坐をかいていたからだ。


 農耕に向かない土地故に農作物は収穫出来ない。あるのは僅かばかりのキノコのみ。それ以外に大した強みは無い。地の利だけ。

 現状の様な騒動が起きれば人が来なくなって利益は無くなる。

 火事が起きて宿泊施設が焼けて使えなくなったら利益は無くなる。

 大雨で森の木々が倒れて道が潰れたら一時的とはいえ利益が無くなる。

 そんな危険な状況下にありながら、蓄えもせずにこの村の人間は栄光が明日も続くと思っていたのだ。工夫をしようという思考が無かったのだ。

 その結果が廃村寸前のあの無様だ。地続きでありながら激流に阻まれた孤島と化したのだ。


 強力なカードを使うのは構わないが、それだけに頼って他を疎かにしたらどうにもならなくなる。

 今から風評被害が都合良く吹き飛ばされて、人流が以前の様に戻って来たとして、現在のあの村では来た人間から搾り取るだけの力がどちらにしろ無いのだ。


 だから派手に狼煙をあげる。

 情報を知らずとも遠くから目にして引き寄せられてしまう程の超弩級の煙をあげ、人をこちらに引きずり込み、金を毟り取り、人を更に引き摺り込み、そして沢山の人という餌を用意して、狩る。

 さぁ、商業と狩りのお時間だ。派手にいこう。

 誰も彼もが頭の中の噂を吹き飛ばされてただ目の前の衝撃的な光景に心奪われる、そんな風に。

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