『終わりだよ。』から『終わりだ。』まで

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「どうした?さっきまでの勢いは何処へ行った?

 観念してお縄につけだのなんだのと言ってたが、お縄に付かせる力は無いのか?お願いして捕まって貰う気だったのか?だからお前達は阿呆だ馬鹿だ無能だと言われるんだ。」

 老医は杖を軽く振るい、若者の方へ悠々と向かってくる。

 現在、老医師の背後には診療所の入り口があり、若者達の背後には自分達が先程入ってきた扉があるという位置関係になっている。

 老医は片足が不自由。とはいえ決して動きが鈍い訳ではない。

 実際、今頭を殴り付けられて眠っている若者1は直線的な動きであったとはいえ、片足で安定感の無い中、凶器を避けて頭を正確に殴り付けていた。

 若者達が全員逃げに徹したとて、隙を見せた途端にそれぞれ一撃を貰って沈むのが関の山だ。


 『ならば助けを求めればいいのでは?』という疑問はあるだろう。


 確かに、犯罪者にとって最も恐れるのは『目撃される事』だ。

 現在老医が犯人であると知っているのは本人を除き、この場に居る4人だけ。4人だけなら撲殺してあの隠しスペースに一度保管、夜になったら森の中に埋める事は出来る。しかし目撃者が増えればそうもいかない。助けを求めて犯人が老医だと判明すれば村人全員が敵に回る。この老医一人で村一つを殲滅するのは流石に困難。大声一つで村人を呼び寄せれば簡単にチェックメイト……と本来なる筈だったのだが、若者達はここに来る前にまたしても有利を捨てていた。

 『皆、また事件が起きたかもしれない!家に居る者、近所の者の安否を確認するんだ!急いで!』

 自分達だけの手柄にする為にこの周辺に居た村人を焚き付けて、あろうことか目撃者になりうる者を一掃していたのである。

 今、大声で叫んでも誰も気付かない。誰かに聞こえる様に走って逃げる間に全員殴られお仕舞い。


 『終わりだよ、ドクジー。さぁ、僕達は騙されない。観念してお縄につくんだね。』と得意気に言っていたが、逆だ。目撃者に成り得る人間は自分達で消した、逃げられない、戦って勝つのは一番勝ち目が薄い。ちなみに、記憶喪失の男は近くに居ると言えば居るが、アテに出来ない。村内での発言力や地の利は老医の方が圧倒的に上、更に大した戦闘経験も無いから抵抗は出来ないからだ。

 結論、ここの村の若衆が幾ら足掻いたとて、老医を突破する事は出来ない。

 最早ここまで無謀無知無能無様を見せられると嗤うを通り越して感心すらしてしまう。

 自分の有利をわざわざ、丁寧に、巻き返し不可能なレベルに捨てるのは狙っているのか?死にたいのか?シェリー君の為に邪魔者を消してくれようとしているのか?


 「終わりだガキ共。さぁ、観念して大人しく殴られると言うのなら、ウノよりも素早く、綺麗に、痛みすら感じずに殺してやろう。」

 杖を構えて若者達に向き合う老医。残念ながらその言葉に嘘は無い。

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