誰も彼もが気付き気付かず踏み出して

 「ゔお゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛い!だぁから、言ったじゃねぇか!さっさと森に突っ込んでとっ捕まえろって!ンだって手前はそう鈍いんだよクソがぁ!」

 「してやられた。」

 怒鳴り散らすのは勿論ウノ。ドーエルは一言だけ静かに呟いて仏頂面。クアットと言えば……

 「皆…行こう。」

 表情一つ変えずに声のした方に足を向けようとして……止まった。

 「あぁ、ドクジーは来なくて良いよ、僕らが行って運んで来るから。」

 ドクジーが見たのは笑顔の仮面。しかし、その面はあまりに脆く、半壊しているのが見て取れた。

 「ヴぉおおおおおおい!トーレーどうして手前ここに来たんだよ!村長の家の見張りはどーしたぁ!」

 ウノの怒声が響くと同時にクアットの肩が何度も強く叩かれる。

 「痛いな、何だよ、誰だよ、叩かなくても解る……」

 肩をしつこく叩かれイラつくクアットが怒鳴ろうとして、自分の肩を叩いていた者の正体が村長の家を朝から見張っているトーレーだったと気付いて怒りに染まりそうだった表情を覆い隠そうと温厚の仮面を顔に貼り付けた。そして、淡々と冷静なフリをして早口で話し始める。

 「なんだトーレーか……どうしたの?一人で来た・・・・・って事は、村長の家に何か動きがあった訳じゃないでしょ?

 今僕達は忙しいんだ。またあの女がやらかした。今直ぐに行って犯人を捕まえないと。

 あぁ、君は村長の所に戻っておいて大丈夫。僕ら3人で十分足りるから。」

 そして、その目は何かを訴える様に若者達を見て、慌てている様に見える。

 「…………(虚空の1ヵ所をたまに見ながら座って欠伸をするジェスチャー)」

 「村長の家では何もなかった?」

 「…………(首を横に振って必死に否定する)」

 「じゃぁ何?」

 「…………(さっきまで見ていた虚空を指差して近付く仕草)」

 「?」

 「…………(驚いたポーズを取って指差していた虚空を両手で揺さぶる)」

 「…………(倒れている人を抱えて揺さぶるポーズ)」

 「…………(『頼むから気付いてくれ!』という必死の表情)」

 「まさか、さっきの毒キノコで倒れたっていうのは、村長?そういうことかトーレー?」

 「…………(顔色が僅かに晴れて全力で首を縦に振る。)」

 「なぁにぃ⁉」「それは、何故……」「衝撃」

 「何てことだ!トーレー、君が居ながらなんで……ヤツ・・が村長にそんな酷い事をするのを許したんだ⁉」

 「…………(『違う!自分じゃない!』という表情のまま首を横に千切れそうな程振る)」

 「まぁいい。過ぎた事は仕方ない。ドクジー、僕達は村の為に先に行く!だから準備をしておくんだ!行くぞ皆!僕達がスバテラ村の未来を掴むんだ!」

 あっという間。

 4人の若人は武器を手にしたまま全力で駆けていった。

 「まったく、あの馬鹿者共が……いや、それどころではない。急がねば!」

 村唯一の医者、ドクジーも診療所へと片足を引き摺りながら急ぎ入っていった。

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