迷う村人達の心

 収穫が全く無かった。

 朝から見張りに残したトーレーを除いたこの3人で村中を歩き回っているけどあの女モリアーティーの姿は一切無い。痕跡も無い。それ以外にも何も無い。

 「………。」

 「なぁに見てるんだァ手前ェ!」

 ウノが無言でこっちを見ていたヤツに向かって怒鳴る。僕は何時も通り、笑ってそれを止める格好・・をした。

 さっき、収穫が無いと言った。それは決して間違っていないが・・・・・・・・少しだけ訂正しよう。

 村の連中の内、ほんの一部・・・・・が、僕らに対して凄く嫌な目を向けているのを見かけた。

 森との境界線の周辺でキノコを採りながらコソコソこっちを見ている人間が今だって何人も居る。さっきまで楽しそうに話していたのに、僕達が近付くと用事を思い出した様に散っていく。家の陰からこっちを覗き込むジメジメした奴等が居る。ヒソヒソ何かを話している奴らが居る。なのに、何故か知らないが僕達に声を掛けようとしない、僕達を遠巻きに見て近付こうとしない。まるで僕達を腫れ物だと思っているみたいだ。


 おかしな話だ。僕達は村の治安を守る為に武器を取って立ち上がっているだけだというのに、僕達を蔑ろにする人間は村の敵で村の害になって人間未満の役に立たない害獣だけの筈なのに何故か村の連中がそれに見える。

 いや、この村の人間は僕を除いて大概が愚かで無知で無能な奴等ばかりだ。集団で皆と同じが正義で変革を嫌って今日と明日の違いも全く考えずに向上心も持たずに無為に過ごしていくだけの連中。僕の様に明日やその先の未来を見据えて今日動き、中毒事件を本気で解決して、この村の未来を憂いて爆発的な変革をもたらそうとする、そんな人間は居ない。

 出る杭は打たれる、異端者有能な人間と特別な人間は何時だって嫌われるものだ。

 僕は何時だって君らとは違う。こんな村本当は出ていこうと思った。ここは僕が伸び伸びと動くにはあまりに狭過ぎる。しかし、僕が居なくなればこの村は未来、中心となる人物を喪う。たとえ僕の力でこの村を復興して以前の活気有る宿場町以上にしたとしても、舵取りをする有能な人間が居なければ直ぐに滅ぶ。だから僕がここに居る。

 そう、僕は必要不可欠だからここに居る。この村に蔓延る邪悪を倒すために居る。

 あの女を絶対に僕は許さない。ここは僕の聖域。僕のものだ。

 あそこで僕達を嫌な目で見ている連中は解っていない。どっちが正しくて、どっちが間違っているかを。

 あんな世間知らずで何も出来ないくせにお勉強をして自分は出来ると勘違いをしている高慢な女より、この僕の方が圧倒的に正しい事を、皆に教えてやるんだ。

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