スバテラ村 回想その4

 オーイは村の中では特にものぐさで怠け者、悪い意味で適当な方だ。しかし同時に、比較的頭の良い方と言える。

 この村の現状がゆっくりと死んでいる状態だと知っているし、この村から宿場町の価値を抜いてしまえば殆ど無価値と分析が出来ていた。だから逆転の可能性が村に眠っているとは到底思っていない。

 だから、細い糸だと解っていても、その場凌ぎの悪足掻きだと解っていても、現状何もないこの村にとっては無いよりか有る方がマシ。アールブルー学園から生徒が来るという話を聞いて村長、つまり祖父の考え方足掻きは間違っていないと考えていた。

 シェリー=モリアーティーが自分と同じ村娘だと知って、落胆が無かったといえば嘘になる。しかし、ものぐさでやる気のいまいち無いオーイにとって、『村の行く末』なんてものはいまいち真剣な興味を持てる対象ではなかった。逆に、同年代の同性は珍しい存在でそこそこ興味が持てたし、短い時間とはいえ楽しいものだった。

 『モリアーティー』だから『モリー』という安直な名前を付けて、ハプニングはあったけど、子ども達と一緒になって遊んで、おいしいものを食べて、笑って、ラクをする時や面倒な事を避ける時とは違った感情があった。

 オーイは実際、あの時間、あの時までの・・・・・・時間は非常に楽しいものだったと感じていた。

 だから、祖父に村長として命じられてからモリアーティーが真実を暴くまでの間は苦痛に満ちた、悲鳴の上げられない拷問だった。

 村の皆が苦しむ事は目に見えていたし、何よりシェリー=モリアーティーに危機が及ぶのが目に見えていた。それでも、それを断るという選択をオーイは出来なかった。片棒を担いだ。

 その結果、自分のやった事で人が苦しむ様を見せ付けられた。

 その結果、自分のした事が人を殺す引き金になるところだった。


 もし、シェリー=モリアーティーが悪意を向けられることに慣れていなかったら、オーイの最後の良心に気付かなかったら、オーイの心には永遠に残る殺人の共犯者という烙印が焼き付き、死ぬその時までその痛みを抱えていたかもしれない。

 それを救ったのは他ならぬシェリー=モリアーティーだった。


 自分を殺そうとした人間を許したシェリー=モリアーティー、自分には出来なかった村長祖父の断罪を行ったシェリー=モリアーティー、そして、自分を陥れた人間達を死の淵から救っていったシェリー=モリアーティー。

 その彼女に対して自分は何も報いる事が出来ないでいる。


 しかし、オーイの足は未だ止まったまま。

 『自分には止められない』と自分の理性が囁いている。

 『自分しか止められない』と自分の衝動が叫んでいる。

 自分には何も出来ないのか?自分はここで何もせずに終わるのか?と自分の中でせめぎ合っている。


 苦悩の中で、シェリー=モリアーティーの言葉が頭の中に響いた。

 「お祖父様は助かります!ドクジーさんと貴女!皆を2人で助けて…」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る