大事の前の食事


 「そうですか、村長さん……無事だったのですね。よかった……本当に良かった。」

 力が抜けてその場にへたり込む。

 淡々と機械的にテキパキと、自称そこそこ天才だけが理性的に合理的に動いていた。

 「成程。それをいち早く伝えたくてこんな早朝、視覚的ディスアドバンテージ満載の中、丸腰準備も無しに突っ込んで、酸欠で私の世話になっている訳か。手間が、掛かる!」

 そう言いながら家に指示を出してあれこれと装置を家中から引っ張り出して組み立てた装置を孫娘の前に置いた。

 小さなドームや風船が二つ並んだ様な形状のガラス瓶に幾つかの装置が取り付けられ、その一端から生き物の腸の様な管が伸び、更に伸びた管の端には大きめのティーカップの様なものが取り付けられていた。

 「ほい、これを付けて。あとはゆっくり深呼吸。そのまま暫く放置していればその酔っ払い状態も吹き飛ぶだろう。あぁ、君は一応彼女の様子を見ておいてくれ。

 この自称そこそこ天才の発明があるのだから万一の事も無いだろうが、それはそれとして、念には念を入れておきたい。

 本人の異常、または装置側に異音や警告音、あるいは異常な発熱等があれば私を呼んでほしい。」

 そう言いながらティーカップを孫娘の鼻と口を覆う様に押し付け、カップ側面を二カ所、指先で摘まんだ。すると輪になった紐が現れ、それを孫娘の両耳に引っ掛ける。

 「私は朝食作りの続きをしておく。

 オーイ嬢、三人分用意はしておく。君も気が向いたら食べるといい。」

 自称そこそこ天才の動きは合理的で無駄がない、ある程度怒気、呆れはあるが。

 「食べられなければ包むとしよう。次来た時に味の感想や改良点があればそれをまとめておくように。」

 そして自称そこそこ天才は発明家という点においてブレる事がない。





 「いやー、なーんかフラフラするなー……とは思っていたんだけど。そっか、ガスか。うっかりしてた。」

 ガス自体をあまり吸い込んでいなかった事や激しい動きをしていなかった事が幸いして軽症で済んだ。結果、孫娘は自称そこそこ天才が調理を終えて盛り付けを終えた頃には復活していた。


 《本日の献立》

・燻製肉と野菜のスープ

・ベーコンエッグ

・二種類のトロトロチーズのトースト

・ホットミルク/ココア


 「それでは召し上がれ。」

 「気が向いたので、頂きまーす。」

 「では遠慮無く、頂きます。」


 孫娘は酸欠の名残で食欲不振……なんてことはなく、シェリー君、自称そこそこ天才、孫娘の三人の朝食が始まることとなった。

 戦前の腹ごしらえ。今日も今日とて忙しくなる。


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