朝から中毒


 「早いね!」

 私が部屋から退出し、シェリー君が身支度を終えて扉を開けると、そこには驚愕の表情を浮かべるエプロン姿の自称そこそこ天才が居た。

 「お早う御座います。昨日は有り難うございました。」

 「あぁ、ウン、あの品、気に入って貰えれば幸いだが……もう少し休んでいてはどうかな?

 未だ日が出ているか否かの状況なのだが、中々な早朝だと思うのだが……?」

 包丁で燻製肉を刻みながら自称そこそこ天才が言う通り、今は早朝もよいところ。この地域は特に地形の関係で日の出が遅く、日の入りが早い関係で、学園でのシェリー君の通常起床時刻よりも外は更に暗い。

 「お陰様でぐっすり眠る事が出来たので、今の私は十全の状態です。」

 ぎこちなさは無い、作り物でもない、自然な笑み。

 だからこそ、自称そこそこ天才の顔が引き攣った笑いになっていく。

 「ジーニアスさん、何か私に手伝える事はありませんか?」

 「あー、では……ふむ、取り敢えずそこに座ってこの自称そこそこ天才の美技を見物しておくといい。

 何か面白いものが見つかったら、その時は見ていると良い。質問があればメモしておくといい。後程作成者の私が直々に詳細説明を行おう。発明家として使う側の意見や視点は非常に助かる。

 あぁ、発明品のサンプル映像出力。」

 野菜を刻みながらトーンを下げて最後の言葉を言うと同時にテーブルが光り、様々な形状、色の何かがテーブルの上に浮かんだ。

 「……これは?」

 流石のシェリー君も興味惹かれてそちらへ吸い込まれていく。

 「立体映像とでも言うべきかな?

 幻燈の魔法の応用。見える筈のものを見えなくするあの魔法を応用して、見えない筈のものを見えるようにしただけという話だ。

 気になった映像に一度触れるとその詳細説明が見られる。

 そして二度触れると実際の発明品がガレージから引っ張り出てくる。」

幻燈の魔法は難易度が高く、補助魔道具も相当高価な物、紛い物であっても使えれば高額取引が成されるのだが……展示用に使われているのは魔道具職人が怒り狂う案件だな。

 シェリー君がそれに触れようと近寄った時、音が鳴った。

 「ジ、ジーニアスさん⁉これは何が起こったのですか?まだ私は触れていませんよ⁉」

 驚いて飛び上がりそうになるシェリー君とは対照的に自称そこそこ天才は落ち着いた様子。

 「あぁ、それは別件だ。外部に生き物の反応、特に何かしら記録された人物の反応があって、それでお知らせしているだけ。

 さて、誰が来たのだろうか?

 外部音声と映像、出力。」

 先程まで発明品が並んでいたテーブルの上に霧で少し白くなった森の映像が浮かび始めた。

 「モリー?モリーぃ⁉何処―ぉ⁉どこにゃのー?」

 孫娘が大声でシェリー君を探している。が、呂律が回っていない上に千鳥足だ。

 見ての通りガスにやられていた。

 「大至急回収しよう。速やかに回収!」

 自称そこそこ天才が少しだけ真剣な声で一喝。映像の孫娘が見えない何かに捕まって浮き上がったのが見えた。

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