鬼手仏心とは言うけれど
「人が生きるか死ぬかのこの状況下でやるべき事ではありません。話は後で聞きますのでどうぞお待ち下さい。失礼致します。
もし入って来るようでしたら、手は必ず洗って下さい。」
始末はシェリー君の主義に反していた故、当然掴んだ手を回避。
『水流』
汚れた部分に手を触れると同時にその部分が僅かに水で濡れ、その水が泥で濁り、最後にはシェリー君の手に泥水がスライムの様に形を成して掴まれていた。
それを汚物処理用の大きなバケツに入れ、濡れた肩に再度手を触れる。
『気流操作』
水に濡れて部分的に色が変わっていた部分が乾いてあっという間に元通り。
簡易的な部分洗濯程度ならちょっとした魔法で十分。これで最低限の衛生は保たれる。
さて、重要なのはこちらだ。
嘔吐する連中には昨日と同じ処置を。
青い斑点の連中には薬を飲ませればいい。
問題は幻覚連中だ。
何度も言ったが、危険な状態だが痛みが有る訳でもなく、動けない訳でもない。そして幻覚を見ていて死にそうな状態。
「強盗にやる金は無ぇ、失せろぉおおおおお!」
そして暴れる。
今も瞳孔が全開状態で虚空を睨みつけて口が半開き、涎を垂れ流している輩がシェリー君に襲い掛かってくる。
暴れれば毒の周りは早くなるし、直ぐ死ぬ。そんな連中が複数居る。
放っておけば死ぬ迄の時間は縮まる上に他の患者への対処にも支障が発生する。
『H.T.』
これに対するシェリー君の対処は拘束だった。
H.T.を最大面積まで展開。幻覚を見ている連中を一まとめにして巻き付け、そのまま強度強化。
H.T.の性質、魔力を流す事で形状を変え、硬度を上昇させる性質を応用し、全員を縛った状態のまま形を留めた。
最低限足と両腕を縛った。ある程度の抵抗はあるが、動き回って他の対処を邪魔することは無く、毒の周りは最低限に出来る。
とは言え、シェリー君は魔力に富んでいる訳ではなく、毒の周りを最低限にするだけ。時間が増えた訳では無く、相も変わらず修羅場は修羅場のまま。
シェリー君がガス欠で倒れて幻覚を見ている連中が暴れ出して、診療所が崩壊、死人が増えるだけ……。
という訳で孫娘があちこちを駆けずり回り、シェリー君がH.T.を維持しつつも対処に向かう。
そして……
「次次次ィ!
さぁ、次の患者はドォコだぁぁああああああ!?」
次々に毒への対処を行い、対処を行い、対処を行い、行い、行い、行い、行い、行い……………。
目が若干血走り、患者や障害物の合間を縫って診療所内を縦横無尽に駆けずり回る様はどちらかと言えば獣のそれに近い。
「全員治すぞぉおおお!」
老医は幻覚を見ているわけではないが、一番活き活きと、そして一番感極まっていた。
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