比較的信頼出来るタイプの天才
「稀にロクでもない連中が来る事がある。そういう時はこれを顔にかければ大概の連中は伏して降参する。」
そう言いながら手の中でチャプチャプと音を立てる小さな霧吹きをクルクル回したり放り投げてキャッチしてみたりと遊んでいた。
「ヴぇ゛ぇ……お゛ぇえ゛……そりゃ誰だってそうなるだろうぇ゛……。
鼻が痛い目が痛い喉が痛い口の中が臭くて辛くて酸っぱい。」
涙と鼻水だらけ。目は充血して喉は枯れている。顔は真っ赤。
全力で自身の肉体の異常を訴えている。
「大丈夫……ではありませんよね?
ジーニアスさん、幾ら何でもやり過ぎではありませんか?」
少しだけ語気を強くして自称そこそこ天才に非難の視線を向ける。が、当の本人はどこ吹く風。平気の平左。涼しい顔をしていた。
「安心して欲しい。元々人体やら生物やら薬学やら遺伝子やらはこの自称そこそこ天才が元々専門としていた領域だとも。メカも得意だが、そっち系はもっと得意だ。
で、それはその時代に作ったもの。招かれざる客に有効だから使っているが、元々は眠くて眠くてどうしようもない時に使う目覚まし薬。あるいは頭がぼんやりしている時用の気付け薬。
目が死ぬ程痛いし涙が出るしでまともに目が開けられないがそれで目を丸洗いしても視力に影響は無い、鼻が痛くて臭くて鼻水だらけになるが別に嗅覚に障害が残るなんて事も無い、喉が一時的に痛くて声がまともに出なくなるが、声がそれ以降変わる事も無い。そして、たとえ飢餓状態でも口にしたいと思わないくらいにクソ不味いが、人体に有害ではない。
そのまま放心状態で居られても困っていた。我々は物資も足りない情報も足りない時間も有るとは言い難い。
それなら、医学的に何ら問題ない措置を講じても何ら問題はあるまい?」
余裕綽々、茶菓子を口に放る。
「……倫理的な問題は一切考慮されていませんよね?」
「舐めない方が良い。この程度如何大騒ぎしてもなんの問題にも発展しない程度に問題だらけの連中がこの国にはごまんと居る。
特に君は用心しておく事だ。アールブルー学園なら、ろくでなしが目を付けてもおかしくはない。
その手の連中は私の様に安全性や人道性、被験者のリスクと自分のリターンを秤に載せてリスク側に秤が傾く様な人間ではない。が、確実にロクでもないものを作り出せる。そして、貴族達はそれに飛びつく。」
茶菓子を口に放り、その合間に話を続ける。その目はふざけている様で全く笑っていない。
こんな所にこの自称そこそこ天才が潜伏して発明をしている理由。『単に煩わしいから。』などという理由では到底済まされない。
つまり、そういう事だ。
「ご忠告、有難う御座います。
ですが、それとこれとは別です。」
「これは失敬。
じゃぁ、取り敢えず中和剤を使うから、そしたら…オーイ君には存分に話して貰おう。
この村と森について君の知ること全部。変わったこと、変わっていないこと、不思議なことも丸っと、な。」
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