見事なスライディング土下座
「おぉ!モリアーティー嬢、聞きましたぞ!何やら村の馬鹿者共が今朝とんでもない事をしでかしたと!
連中に代わり謝罪致します!誠に、誠にぃ、申し訳ありませんでした!」
診療所に向かったシェリー君と孫娘が最初に見たのは赤黒い汚れのついた、つい先程叩き折られたばかりの杖を投げ捨て、全力疾走の勢いでこちらにやって来て、途中音を響かせながら地面に膝を叩き付けてスライディングから繋げての土下座だった。
慣性の法則や摩擦は魔法世界にもあるので土下座のまま滑り込み、我々の前で土下座老医は無事止まった。
見事な土下座だ。
「ドドドドクジー大丈夫⁉¿?¡¿」
「ドクジーさん、大丈夫ですか⁉」
膝が地面にぶつかった際に診療所中に響く程の良い音が鳴り響いていた。
それを二人して膝を付いて無事を確認しようとして老医が頭を
「大丈夫ですか?なのはシェリー嬢、貴女の方です!
昨日村人を救う為にこの老骨と共に汚物にまみれることも厭わず粉骨砕身治療に励んで下さった大恩ある御方にあろう事かあのボケガキ、斧を突き付けたそうではありませんか!」
「それよりも、血!血です!床のその血は昨日掃除した時にはありませんでした!
一体どうしたのですか!?」
そう言ってシェリー君が指先を向けた先には床に出来た赤黒い斑点。丁度老医がスライディングをしてきた経路にあったもの、血痕だ。
だが、それは今のスライディング土下座が原因ではない。血痕は上から下に滴り落ちて暫く経って固まっているものだ。
今出来たものならばそれは本来膝と地面によって掠れた筆で描かれた赤絵具の様になっていなければならない。
「あぁ、これは心配ありませぬよ。阿呆の頭を杖でぶん殴ってショック療法で治そうとした時のものですので。
それよりも!シェリー嬢!あなたの方です!」
ある程度話を聞いて要約した所、こういう話だった。
今朝、老医は昨日の疲労もあって日が昇ってから大分経って起床した。
すると診療所の外が騒がしい。見てみればシェリー君の糾弾の最前に居た、例の死にぞこないが診療所の前で騒いでいた。
『治療しろ』とあまりにも五月蠅いからと、診療所で診察・治療をしていたのだが、痛いだの目が回るだの何だのと暴れながら今朝あった事をぎゃぁぎゃぁ喚き始めた。
で、斧を突き付けて、家捜しをして、服をひん剥こうとしたと言い終わるか否かの段階で老医が激怒して杖で思い切りアレの頭を殴り付け、止めを刺す前に追い出したという訳だった。
それがつい先程まで起きていて、詫びを入れようとしていたところでシェリー君らが登場。土下座に至ったという訳だった。
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