ようこそ我が仮家へ

 Q. 毒殺は他の殺害方法と決定的に違う点がある。それは何か?

 A1.殺害の際にその場に居なくて済む事。つまり、事件の起きた時刻のアリバイの重要性が他に比べて無いこと。

 逆に言えば事件発生時にアリバイがあったとしても、それは無視される。

 A2.凶器毒物次第では持ち主の特定が困難であること。指紋が付かず、子どもから大人まで、毒を混入させる事が出来れば誰でも事件が起こせる凶器。混入の段階で捕縛出来なければ犯行を認めさせる証拠には成り得ない。

 製造困難な毒物や所持している人間が限られているものであれば話は別だが、ありふれた毒物、誰でも作れるものは特定出来ない。

 それこそ、大量の凶器毒物の残りでも無い限り……。



 「証拠というのを是非、お見せ下さい。あるのでしょう?私が皆さんに毒を盛ったという確たる証拠が。

 ならここで議論をせずに確固たる証拠を出して、捕まえてしまえば良いではありませんか。

 私がやったという証拠を突き付けて、私を追い詰めて、私を捕えれば良いでしょう?」

 斧を突き付けられたままで平気で話を繰り広げるさまを見てはらわたが煮えくり返っている。

 それはそうだ、斧なんて日常突き付けられる機会は無く、自分がやられて怖い。が、シェリー君に関しては斧を突き付けられるどころか弾丸を頭に叩き込まれている。今更避け易い素人の凶器なんてどうということはない。

 「ンのタコ野郎がぁ!」

 シェリー君は残念ながら軟体動物でもなければ男でもない。

 強いてタコ野郎が誰かと問われたら、目の前で茹でられたタコの様な顔をして、斧を持っている物騒な男だろう。

 「グルルルルルルルルルルルゥ!」

 言葉に詰まって唸り始めた……タコではなく犬だったか。

 「証拠は、何処に有るのでしょうか?」

 当然、証拠は連中の手元に無い。今回の場合、この連中が用意出来るのは凶器の毒。外部から来た人間が手元以外で保管するのは心理的にも犯罪者的にも非常に非合理的。

 「テメェに貸してる家ん中にんだよ!クソガぁ!」

 はい、という事で証拠も無しに家に踏み込もうと凶器を担いでやって来る暴徒連中。その辺の地面を掘り返せば、村民に肥料にされた法が出てくるだろうさ。

 「大人しくそこを退いて家探しに協力しろ、さもねぇと」

 これ見よがしに凶器を見せつけて迫る先頭陣。これは果たして脅迫罪か、殺人未遂罪か?

 そして、さてシェリー君の反応は如何に?

 「あぁ、どうぞ徹底的にお調べ下さい。といっても、家の中のものは最低限しか触れていませんし、私の荷物は大してありませんので直ぐに終わると思いますよ。」

 客人を家に招き入れるようにドアを開け放って手招きをした。

 勿論、笑顔を忘れずに、である。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る