ナースかと思ったかね?ドクターだ。


 シェリー=モリアーティーがスバテラ村でナースや医者の真似事をやる羽目になった経緯の説明をする為に一時間前に時間を戻す。


 診療所の前には行列が出来ていた。しかも、その大半は呻き、顔色が悪く、全員診療所の壁に背中を預けていた。

 「これは一体……ドクジーさん、いったい何が起きたのですか⁉」

 診療所から伸びている列を辿って中へと入っていく。予想通り、そして文字通り修羅場だった。

 数少ないベッドが呻く患者で埋まり、木箱や椅子を並べてくたびれた毛布を敷いた臨時ベッドが作られているものの、それでも足りずに地面に寝かされている者、壁に背中を預けている者が居る。

 忙しなく老医が足を引き摺りながらあちこちの患者を診断しているものの、圧倒的に手が足りていない。

 それが証拠に用意されていた容器から汚物がこぼれて地面にまき散らしている者が多数居る。周囲には胃液のすえた様な悪臭が立ち込めて、呻く村人の声が響く。

 この状況下では例の正体不明の誰かについて聞く事は困難だ。

 あぁ盛況だ。とても盛況だ。繁盛していると言ってもいい。

 もっとも、医者の繁盛なんて表現は倫理的に問題がある。それに、医者が盛況だというのは中々ロクでもない事が起こっている証左でしかない。

 「おぉ、これはシェリー嬢、お見苦しい所を申し訳ない。

 急病人が大量に担ぎ込まれまして、悪いですが御用があるのでしたら後程……いや、もしかして急患ですかな?」

 「違います。診療所の表を見てここに来ただけで私は至って健康です。一体何が起こったのですか?」

 同様の症状がこれだけ同じ様に並んでいる。その原因として考えられるのは先ず細菌やウイルス。そして、中毒。特に食中毒だ。

 「この症状は間違い無く毒キノコですな。食材に紛れ込んでいたものを食べてこうなったのでしょう。ここまでの人数が一度に来るのは診療所が開いて以来初めてやもしれませんな。」

 そう言いながら足を引き摺り、呻いていた男の体を起こし、先程まで吐いていた物を見た後で深緑色の液体を匙に乗せて口に含ませ、コップに注いだ水を飲ませる。

 「手伝います。ある程度医学に関する心得はあります。」

 自称天才から貰った物をH.T.で包んで懐に入れ、腕まくり。水場を見付けて腕を洗って既に準備万端。

 ちなみに医学に関する心得を教えたのは他ならぬ私だ。

 モラン商会の連中と会った後でシェリー君から医学医療に関して徹底的に教えて欲しいというリクエストを受け、一通り教えてある。

 脈の取り方から傷の縫合から解毒方法までなんでもござれだ。


 ちなみに、私がそれを何目的で覚えたかは覚えていないが、目的の察しはついている。

 深入りはおすすめしないからそのつもりで。


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