自称そこそこの天才発明家

 「さぁ、好きなものを適当につまんでくれ。味に関してはそこそこだと自負している。

 あと、僕も食べるから好きなものは先に食べておいた方がいい。」

 テーブルにつき、用意した菓子を摘まみ上げ、幸せを噛み締める様にゆっくり咀嚼する。

 飾りこそ無いが質の良い、汚れの無い白磁のポットから湯気が漏れ、屋外ながら茶の良い香りが漂ってくる。

 同じように曇りも汚れも無い皿に乗った焼き菓子。香りからして原料は例の木の実を粉末にした物だ。が、甘く香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。

 そして、シュガーポットには製菓か飴作りにでも使うのかという位の山盛りの角砂糖。

 男は慣れた手付きでティーポットを掴んで自分のカップに琥珀色の液体を注ぎ、角砂糖を5つ放り込んで飲み干す。

 更に口に菓子を放り込み、茶を入れて角砂糖を入れて飲む、菓子を放り込む、茶を入れて飲む、放り込む、飲む、放り込む、飲む………

 再度霧が出始め、周囲が白く染まっていく中、客人を招きながらも男は躊躇い無く、存分にティータイムを楽しんでいる。

 傍若無人やマイペースと評するべきだが、その行動に不快になる事は無い。

 客人そっちのけでティータイムをしている事を除き、最低限のマナーは守られている。菓子を食べ、茶を飲む動作自体は様になっている。

 更に言えば初見の客人の前で出したものを食べて毒見をしていると考えれば客より先に食べるという行為には今回に限り目を瞑れる。

 「…………その、聞きたい事があるのですが……」

 呆気に取られていたシェリー君が男に声を掛ける時には、既に皿の菓子は半分彼の口の中に消えていった。茶も、何処からか取り出したもう一つのティーポットから注いでそれを飲み干していた。もうかなり飲んでいる。

 「この僕に、何が訊きたいのかい?」

 「茶会のお誘い感謝致します。ですがその前に、貴方のお名前を伺っても宜しいですか?」

 菓子を砕き飲み、自分の頭を抱えた。

 「僕としたことが、肝心要の事を伝え忘れていた!名前が無ければ、あるいは知らなければ、そもそも何を指し示しているのか解らない。危険なもの、安全なもの、有益なもの、無益なもの、物の働きを強めるもの、物の働きを弱めるもの、未知のもの………エトセトラ……………エトセトラ……………エトセトラ……………エトセトラ……………エトセトラ。それらを別の考え、別の視点、別の種類の人間が対象への認識をほぼ共有出来る画期的発明、名前を言い忘れていたとは、あるまじき失態!」

 頭を抱えて他人に言っているのか自分に言い聞かせているのか解ったものではない。

 ちょっとした奇行をただただ静観していると、男はカップの中のものを飲み干し、懐から取り出したハンカチで口と手を拭き、シェリー君に向く。

 「初めまして。私謹製の私の城へようこそ。

 私の名前はジーニアス=インベンター。自称そこそこ・・・・の天才発明家だ。」

 自称そこそこの天才発明家はお辞儀をした。

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