何故ガス?

 木々が左右に分かれて生え、木の枝が絡み合って光を通さない、まさにトンネル。

 村を出て森へと入り、先程までは下り坂から平坦な道と続いていた。そして今、このトンネルは上り坂になっている。

 「今、こうして冷静に見ると風景が違って見えますね。

 ここでは木に登れずに坂道を歩いていきましたが、改めて思い出してみると、坂を上がる程に霧が薄くなっていました。気付いたのは今更ですがね。」

 「今更でも気付けば良い。気付かない事に気付けたという事は成長の証でもあるのだから。

 もっとも、気付きが成長だと実感出来る様に取り返しがつく様な状態でなくてはならないがね。」

 気付きの対価に命ではあまりにも釣り合わない。

 「そして……これは相変わらず分かりませんね。」

 焚火の準備があちこちでされて、着火前の状態のまま放置された。という様に見える。他には何の痕跡も無い。

 周囲を警戒、警戒、警戒……。しかし何も見付からない。何も起こらない。霧は相変わらず出ていない。

 「……この先からが問題ですね。」

 枝の山の先にあるのは下り坂。そして眼下には豆スープの鍋の様な霧が立ち込めて、そこから木々が頭を覗かせている。

 相も変わらず生き物の気配は無い。音が無ければ当然濃霧で見えもしない。

 濃霧はけっしてこちらまでやってくる事は無い。眼下で音もなく蠢いているだけ。

 「行きます。」

 魔法による身体能力の強化を一度だけ行い、霧から顔を出している木の太い枝に坂の上から跳躍して着地する。

 枝は衝撃が加わったというのにビクともしない。

 「ガスの発生源はあの時には確認しなかった池だと考えています。」

 「ふむ、そう考えたのは何故かね?」

 警戒心は絶やさない。その状態を維持したまま、口を開く。

 「ガスが発生していると考えた時に、一つ疑問が生まれました。『ガスは一体何故、どこからやってきたのか?』と。

 ここは確かにガスが溜まる地形は確かに揃っています。それでも、ガスが生まれない限り酸素欠乏症の発生条件を満たしません。

 だとすれば、何処からかガスが発生、または漏洩していると考えられます。しかも、これだけ広大な場所で酸素欠乏症を起こせる程大量に。

 ではガスは何処からやってきたのか?その時思い出しました。あの時、池を通る時に水音とあぶくの音が聞こえていた事に。

 最初は水生生物が原因だと思っていたのですが、もしかしたら、ガスがそこから発生しているのではないかと……」

 「成程、生物の死骸から発生したガスが原因だと、いう事か。」

 ガスが発生する原因としては十分だ。

 しかしそれには問題がある。何故ガスが無色ではなく霧になっているのか?匂いが存在しないのは何故か?そして、これは何故発生したのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る