就職面接?

 「現在幣商会は深刻な人材不足となっているッス。具体的にどの程度かと言えば、会長不在で副会長が今にも死にそうッス。というか、帰ったら死んでるかもしれないッス。」

 「………?」

 「で、幹部連中は自分のメイン仕事以外に人材確保の仕事もやってる最中ッス。

 モラン商会は新参故に真っ白な新人ばかり入れると教育係に人手を取られて確実に幹部がみなごろしッス。」

 「?????」

 「そこで、商業に転用出来る技能持ちや元商人さんを狙ってスカウトしようって事になって…今まさにニタリさんとキリキさん…で良いッスよね?

 お二人をちょっとウチにスカウトしようかなぁー…って思って訊いたっす!」

 訳が、分からない。

 先刻まで殺し合いをしていた、自分の命を狙っていた殺し屋相手に平然と自分の在籍する商会に誘う……。

 「イカれてるんじゃねぇかぁ?」

 「傭兵上がりの商人なんて正気じゃやってられないッスよ。」

 「なぁるほどぉ。そりゃぁ道理だぁ。」

 殺し屋が捕らわれて情報を吐かされたり懺悔の言葉を言わされたり狂気じみた視線をコッチに向けて呪詛を延々聞かされるのは容易に想像出来るがスカウト、しかも商人にスカウトなんて気が知れない。

 「短剣術一通りぃ・薬物の調合ぅにぃ、魔法は簡易の術式の付与とぉ文字の読み書きに乗馬。

 俺はこれくらいだぁ。お眼鏡にかなったかぁ?

 まぁ、商人やるのに何の役にも立ちようが無…「おめでとうございます採用ッス!」

 ???????????

 「お前さん、本当に商人かぁ?」

 「如何にもッス!ウチは物騒な連中相手に身を守れる技能や商品の専門知識持ちは大歓迎ッス。

 相方さんももう直ぐ目を醒ますと思うんで、そしたらそちらさんにも同じ話をして、で、返答を聞きたいッス。

 お二人さん、ウチで働く気、無いッスか?

 給料ちゃんと出ますし、頭数がちゃんと揃えば週休二日にするって副会長が自分の身の安全の為に息巻いてましたし、悪い職場じゃ無いッス!

 因みに、コレは商会から『幹部』にって事で支給されたモノッス!」

 オレンジ色の筒を掲げて見せてそう言った。

 「殺し屋ふん縛っての選択肢ってのはぁ、無意味とか無駄ってもんだぜぇ?」

 「それもそうッスね。でも、断られたらそれはそれでスッパリ諦めて開放するように言われてるッス。

 安心してほしいッス。」

 考えるまでもない。

 この男は俺達を殺そうと思えば殺せていた。今も気が変わってしまえば俺達はおしまいだ。それに、失敗した以上、俺達のこの仕事はもう終わりだ。

 俺達は徹底的に負けた。ならば強者かつ勝者に従うのが道理だ。

 「殺し屋は失敗した段階で死んだも当然。俺もキリキもそれは重々じゅーじゅー承知してるんだよなこれがぁ。

 さーぁ俺達を殺さずに捕らえた凄腕上司様ぁ、初仕事は如何しましょうかぁ?靴でも舐めましょうかぁ?」

 死体も同然の俺達にもう自由意志は無い。

 「あ、じゃぁ殺しの仕事の成功の報告をしてサイクズルの爺から金巻き上げる役目、俺に代わって欲しいッス。

 お願い出来るッスか?」

 「あーぁ、良いぜぇ………ぃ?」





 なお、目が醒めたキリキはと言えば……

 「体力に自信があります!力仕事も荒事も得意です!文字も計算も出来るけど苦手です!どうぞ宜しくお願いしまぁす!」

 考える隙も説明の間もなくモラン商会のメンバーが二人増えた。




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