If?:触れ愛71

 『何故?』というのが男の感想だ。

 術式は解除された筈で、自分は既に爆弾のくびきから逃れたと思っていた。

 しかし、今まさに自分の体を目を潰さんばかりに輝かせる紋様は、色合いこそ違えどあの忌々しい術式が作り出したそれと酷似している。

 「なんで?なんで!」

 担いだ女の困惑と怒りの声で男は我に返り、声の主の無事を確認する。

 これがもしあの術式と同じものなら今まさに触れている女にもそれは伝播する。と考えて恐れたからだ。

 しかし、幸と言うべきか、女の体は光っていない。

 この奇怪な現象は自分のみに起こっていると安堵していた。


 「あぁ、再び失礼、術者だ。

 君達の街にはどうやら腕の良い魔法の使い手がいるらしい。

 私の術式の起爆を解除したものが居る。

 なので、敬意を表して解除に成功したものは赤く光り輝く様に術式に細工をしておいた。

 解除したのか、してもらったのかは解らないが、爆発を逃れる方法を知っていてもおかしくはないね。

 私は彼らに頼るものを咎めはしない。好きにするといい。

 それでは。生き残ったものには『また』を、

 それ以外は『さようなら』を、送ろう。」


 男の体中の熱が奪い取られた。

 血液が一滴残らず何処かへ無くなり、代わりに凍り付く寸前の水をありったけ体の中に詰め込まれたような最悪の気分。

 だというのに、体からは汗が流れ落ちていく。

 術式を解除した時に、男は少し引っ掛かりを感じていた。

 魔法に類するものを解除するにはそれ相応の魔力を使う事になる。

 だが、その量はたかが知れている。

 個人に対して使われた術法の一部を改変して崩壊させるのだから、なんなら単純な魔力消費だけなら下手な火を起こすよりも少なくて済む。

 だというのに、解除の瞬間に起きた疲労感。

 命の危機という緊張状態故に起きたと男は勘違いしていた。

 違ったのだ。あの段階で既に術式はこの状況の準備を終えていた。


 「どうしてもこの術者は人を殺したいみたいだな……」

 術式付与をしなければ死ぬ。

 術式付与をすれば魔力を消費して、消費し過ぎると死ぬ。

 外に助けを求めようとしても死ぬ。

 そんな状態で解除出来る奴を見つけられるならそこに助けを求める……………。

 そうなったらもう悠長に一人ずつ解除なんで出来やしない。

 魔法の使える者に救う手立てを教える間もなく人の波に呑まれる。

 暴動が起きて、魔法が使える者は誰も救えずに死体が積み重なって……………。

 考えが頭を巡る中で足音が響いてくる。

 完全包囲されているな。

 そんな戦略は誰も立てていないだろうが、全方位から群がってくれば自然とそうなる。

 逃げ場なんてない。

 隠れる場所も無い。

 相手は血眼になって俺達を探しに来ているし、俺は光って目立つ。

 ま、どうしようもないな。




 は。

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