階段の下には


 「妙な所は触んなよ。あと、出来れば俺の踏んだ場所に足を合わせて来い。」

 壁、足元、天井………この手の場所には幾つも罠が張り巡らされている可能性が有る。

 逃げ場の無い、狭い石階段。

 側方から仕掛けの矢を射るも良し。上から天井を落としてミンチにするも良し。入り口と出口を塞いて水でもなんでも流し込むも良し。毒ガス…なんて手も有る。

 先行した連中の姿も、血や異臭も無い所を見ると、ここに罠が無いか、はたまた仕掛けられてはいたが全て回避したか………。

 どちらにしろ先に進むしかない。

 「面倒だ。」

 警戒を怠らず、下へ進んでいく。

 「ジャリスさん。」

 後ろの方でレンが真剣な様子で口を開いた。

 「何か、本棚の裏の隠し通路とか、どっかの城の地下とかみたいなこの階段とか、古代遺跡の探検やダンジョン探索みたいでちょっとわくわくするッスね。」

 ゴッ

 肘鉄を喰らわせた。

 「真面目にやれ。」

 「真面目ッスよ。これ以上無く!」

 「だったらもっと問題だ。」

 さっき迄聞こえていたやかましい音は止んだ。

 下で喧しくしていた連中がくたばったか。はたまた下でが起きたか………。

 どちらにしろ、状況が変化しているのは事実。

 さっきの狙撃を凌いだ奴が未だ居るなら、全滅したとは考え難い。

 何が起きた?

 お嬢様学校の地下。

 お仕置き部屋というには大掛かり過ぎる。

 隠し扉の場所が場所だけに学長の……とも考えたが、同じ様に場所が場所だ。考え辛い。

 あぁ。貴族の娘に手を出してはここの学園丸ごとぶっ潰される程度では済むまい。

 要は………………だ。


 ガチャリ


 ウィリアム得物の具合を再度確認する。

 どう考えても、ここを作った輩も、忍び込んだ連中も、お茶会がお好きなお花畑では無い。

 いつでも撃てるように引き金に指を掛ける。

 そんな事をしている内に階段の終わりに辿り着いた。

 「あれ?行き止まりッスか?」

 後ろからレンが頭をひょっこりと出し、階段の終わりをキョロキョロ見回す。

 階段の終わり。

 人一人が立てるだけの石床が有るのみ。

 三方を壁で覆われ、天井にも特に何も無し。

 一本道だったし、途中何かを見落とした…なんて事は考え辛い。

 下手に調べて良いものか。罠の可能性?爆音がしていた事から、確実にこの先に有ると踏んだんだが……。


 ガガガ!


 思考を巡らせている内に何処からともなく音が聞こえた。

 重く、大きい石の塊を引き摺る様な音。同時に足元の石階段が振動で揺らぐ。

 頭の上から響いている様にも聞こえるし、足元から地響きでも起こったかのようにも思える。

 とても人力とは考えられない。

 「ジャリスさん、俺、なんも弄っていないっすよ!何しちゃいました?」

 「落ち着け、慌てて不用意に動くなよ。」

 引き摺る音が大きくなり、地面が揺れ、壁に手を付く。

 レンの動きには注意を払っていた。特に罠を作動させた様子はない。

 じゃぁ時間差トラップか?

 そもそも、罠か?にしては大掛かり過ぎる。何より、罠は相手が気付かぬ間に致命傷ないし命を奪わねば効果は薄い。

 こんな揺れと音は悪手にしかならない。

 あちこちから響く音と振動に警戒し、ウィリアムを念の為に構え、辺りを警戒する。

 「ジャリスさん、アレ!」

 レンが足だけ微動だにさせず、俺の肩を外さんばかりの勢いでバンバン叩く。

 その先は階段真下。行き止まり…だった筈だ。

 それが今、振動と音に呼応するように壁が持ち上がり、その先に隠されていた地面が徐々に見えて来た。

 「ったく………レンの言ってた事、真面目に考えなきゃならねぇなぁ。」

 階段の先へ続く道が大きく口を開けて待ち構えていた。


 ノッシノッシと階段を下りる。

 手には大荷物。息をぜぇぜぇと切らし、階段を下りる。

 鉢合わせの心配は無い。正面からバッタリ…という事も無い。

 予定が狂いはしたが、帳尻は合う。


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