私がしてこなかった事


 「この鍵、共通点が幾つも有りますが、同時に相違点も有ります。

 共通点は鍵の大まかな意匠が一致している事、ゴーレムが守っていた事。

 反対に相違点は鍵の大きさ、鍵の隠し場所になっていた物の特徴等が上げられます。

 これらの共通点と相違点に意味が有るとして、それは何だと思いますか?」

私の問い。

共通点と相違点の意味についてだ。

「先ず、ゴーレムが守ってたのは、材料の問題じゃ無いのかナァ? これだけ石があるなら、それを材料にしようとするのは当然じゃ無いかナァ?」

「先ず、その通り。では、何故意匠が同じなのでしょう?」

「同じ意匠の意味…にー。

デザインが同じなのは同じ職人に作らせたからじゃないのかにー?」

それは当然だろう。

先ず、規格をバラバラにすると、錠を仕掛ける際に複数の施工者、つまり目撃者を生み出す。

防犯姓は高まっても、隠匿性が減っては本末転倒。という訳だ。 これが1つ目の理由。

本来ならば、規格を同じにすれば、他の連中を出し抜くのは容易になってしまう。

何せ、開け方や性質を熟知している人間の特定をせずに済む。

吐かせるなら、職人の家族を拐って脅せば良い。

解錠方法を訊き終えたら、家族諸共職人を始末すれば、他を完全に出し抜ける。

が、そんなことは他の連中も当然考える。

職人を自分の手駒にする為に躍起になる。

だからこそ、ここの連中は同じ職人に作らせた。

互いに互いの急所が判明し、それが共通している。

その場合、職人をそれぞれが必死になって守り合う。

例えば、誰か1人が他を出し抜こうとすれば、それ以外の少なくとも4人が敵に回る。

もし、規格をバラバラにしていれば、1人を狙い撃ちしても、自分に危険が及ばない他は手を出さないだろう。

だからこその統一規格。

要は全員が三竦み状態になる訳だ。

これが2つ目。


少なくとも1つ目の理由は、この4人、向こうの1人を含めて5人が、この施設を作った連中が複数犯であると知らずとも、隠匿性確保の為にはそうする意味があると説明出来る。


「成る程ナァ。」

「5つも作ったら口封じが大変になるにー。」

「んー?でものー。」

「ぬぅ?待て、結局どういう事だ?」

気付かれたか。

「形状と大きさが違う鍵をわざわざ作る意味は、どういう事かのー?」

「ぬぅ、それに、その理屈、この鍵の形から考えると、結局金庫は5つ有る。ということに成らないか?

結局、我々が見つけた仕掛けは1つ。鍵は5つ。数が合わない。

つまり、我々は、鍵穴を見付けられなかったという事に成らないか?」

「つまり、まだ探さなきゃ成らないってことかにー?」

肩を落とす4人。しかし、その必要は無い。

「ご心配無く。先程も言いましたが、この鍵で、開きます。」

そう言って手の中の5つの鍵を指先で弾いた。



鈴の様な音が聞こえた。

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