認知と再認知
「一ヶ所目。」
「自動修復機能の有るゴーレム達が居ました。
鍵の有った場所は、床下の修復機能の核部分でした。」
「二ヶ所目。」
「手足と胴体の材質が違う、細身で移動速度に秀でたゴーレムが7体。
鍵の有った場所は、地面。地面に落ちていました。
具体的には場所を断言できませんが、ゴーレム破壊前に確認されていなかったので、ゴーレムの中の一体に内蔵されていたかと考えています。」
「フゥム、『憶測は感心しない。』と言いたいが、警備する側の心理を考えるとそれが妥当だろう。
では、三ヶ所目。」
「壁に偽装した部品で組み上げられた巨大ゴーレムでした。
鍵の有った場所は、そのゴーレムの中に有りました。」
「四ヵ所目。」
「熱線を腕の大砲から放つ……言うなれば移動砲台が相手でした。 鍵の有った場所は、やはりゴーレムの中でした。」
「五ヶ所目。」
「実際に相対してはいませんでしたが、ある程度暴れた後で自爆したと聞きました。
鍵は、爆風で吹き飛んでいたので具体的には解りませんが、これもおそらく内蔵されていたかと……。
………相違点しかありませんね。」
そう言って考え込む。
「オーケー。間違ってはいない。が、すこし情報精度が低い。もう一度今まで見たものを精査したまえ。」
私とシェリー君は原則的に同じものしか見ていない。
別に壁をすり抜け盗聴盗み見何でもアリの理不尽幽霊をやっても良かったが、それでは模範を見せられないからね。
視力の問題ではなく、視点、認知的問題。
『同じものを見て、何を見い出すか?如何認識するか?』という問題だ。
人間は目に映っているものを全て完全に処理し、記憶している訳では無い。思った事全てを憶えている訳では無い。
例えば、私が試しに『自分が今日見たモノ、した経験を全てレポ-トに、120000字以上150000字以下に纏めて提出したまえ。』と言ったら、提出できる人間はどれだけいるかね?
歩いた場所の地面の色、通った建物の階数、すれ違った人の顔、話した内容一言一句、思った事を詳細に書いたとしたら正直0が二・三個足りまい。
……何を言いたいかと言えば、要は、人間は見たものを取捨選択して記憶する訳だ。
そして、取捨選択の基準を変えると世界の見え方は大きく違って来る。
自分が見た光景全てに意味が有ると仮定し、熟考する。
意味が無いという事は無いという前提でモノを見て、考える事だ。
「確かに、ゴーレムの種類から何から全く違うね。
が、今見逃した、否、正確に言えば見ていたけど認識していなかった要素の中に、2群に分けられるものが有った筈だ。思い出したまえ。」
「………違い、2群に?1:4?2:3?
ゴーレムの数?部屋の広さ?違う、この場合、問題の核は鍵………。鍵に関する要素で2群に分けられるもの…………」
思考を巡らせるシェリー君。
「鍵はコレで間違いない。ただし規格が違う……何かの加工過程が存在する……単純な手段………この場所………石と灯りと鍵と…………」
目を瞑り、思考が加速する。
今まで学園の学業だけでなく、私が何故か知っていた言語学、交渉術、数学、科学、心理学、体術………兎に角私が持ち、授けられるものをシェリー君にありったけ渡して来た。
まだまだ未熟だが、それでも会ったばかりの頃とは全くの別人と言っても過言でない程に頭脳は磨かれ、知識は研がれ、輝きは増している。
彼女に必要なのは、見る事だ。使い道を知る事だ。
今自分が見た物や持っている技能や知識をよく見てどう使えば良いかを改めて考える事だ。
「………皆さん!少し探したい場所が有りますから少しこの部屋を探して待って下さい!
あぁあと!鍵穴ではなく変わった形の穴や溝を探して下さい!
床や足下ではなく、壁に有る筈です!」
何かを閃いたかと思えば、唐突にシェリー君は駆け出して行った。
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