モリアーティーが問い、モリアーティーが答える。
取り残される形になったシェリー君は4人の背中を見て、浮かない顔をしていた。
「シェリー君、何か、言いたいことが有るようだね。」
シェリー君が言いたい事、心の内に秘めた事は解っているが、敢えて訊く。
「教授は、解っていらっしゃいますよね?今行った事に『言い忘れ』と『考えの甘さ』が有った事を。」
『隠し事』では無く『言い忘れ』・『甘さ』と来たか。
教えた側が言えた事では無いが、中々言う様になったものだ。
「あぁ。そうだね。例えば……大広間に鍵穴が有る理由。かね?
あそこにもゴーレムは居たし、理由としては弱い。
もし、あの場に鍵穴が有るとすれば、それは防犯の問題では無く、別の問題が引き起こした結果だろう。」
そう、別の問題故に鍵はバラバラ。ちぐはぐな防犯システムがこの状況を造り上げている。
「もし、私がこの場で宝を守るのであれば、こんな風に大広間からそれぞれの部屋に繋げる様な事はしません。」
シェリー君が何かを考えつつも、自信有り気にそう言った。
「ほぉ?それは何故かね?」
「これだけ侵入者を迎撃する為に大掛かりな仕掛けを作っているにも関わらず、それを十全に運用していないから……です。
もし、設計者が侵入者を本気で迎撃し、宝を守ろうとしていたのであれば、大広間で休む様な暇が出来る構造にはしなかったでしょう。」
この状況。石の人形という手駒が五種類+一種類有り、外部からの補給が困難な状態。
この状態で侵入者が最もやられたくないのは消耗戦。つまりは絶え間無い攻撃だ。
休む間も無く波状攻撃に曝されれば、精神と頭脳、肉体に疲労を積み重ね、それは普段ならば決して犯さないミスを呼び、致命的な打撃に繋がることが有る。
繋げる事が出来る。
しかし。
「今回は最初の大広間で物量戦を仕掛けられこそしましたが、その後に追撃は有りませんでした。
隣の部屋に十二分な戦力を5つも温存していたにも関わらず…です。
お陰でこちらは適度に休息をする事が出来ましたが、相手方としては戦力を計6つ壊滅させられ最悪の事態。
何かを企むにしても無駄が多過ぎます。」
そう、この構造は警備をしている様で本気で侵入者を迎撃するように出来ていない。
何故戦力を分断した?鍵の分散による略奪難易度上昇が目的?
戦力を分散して鍵の入手難易度を下げてしまえば何の意味が有ると言うのかね?
では、各々の戦力を最適運用する為の環境造りが目的かね?
確かに、大広間に爆弾ゴーレムを投入しても効果は薄くなるし、狭い部屋で速度特化のゴーレムを投入したら意味は無い。
適材適所を重要視した?
だとしても、そもこんな大部屋から五分岐する構造にせず、部屋を6つ、分岐無く1列に並べて、各々に相応しい環境の部屋をあてがった方が良いだろう?
例えば、一部屋目に誰かが入った時には入口を閉ざして逃げ場を封じ、倒されたら先へ進むための扉を開け…というのは如何かね? 陥落した部屋に長居すれば催促する様に扉を閉じれば、侵入者は進まざるを得ないし、対策や様子見もシェリー君の様には出来まい?
「さぁ、君はここから何を見出だすかね?シェリー君。」
意地悪く、試す様にシェリー君に問い掛ける。
「………5人?…以上?」
暫し考え、と言っても数秒だが、シェリー君はそう言った。
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