かいてきなたび 32

 目を回した三人を馬車の外に引きずり出し、縛り上げる。

 馬は無事だったので近くの木に繋いでおく。

 荷物と熊を崩落した樽の中から引っ張り出してシェリー君はその場を後にした。

 ここからならば、シェリー君の故郷迄徒歩で行ける。

 「さぁ、行こうシェリー君。起きられたら厄介だ。」

 「…………えぇ、解っています。」

 そう言って縛り上げた三人の前で立ち止まり、

 「有り難う御座いました。短い間とはいえ、皆さんとの旅は楽しかったです!」

 そう言って頭を下げ、荷物を手に、目的地へと歩を進めていった。

 少し歩き、三人組が見えなくなった辺りでシェリー君に言う。

 「全く、あんな大声でお礼を言っては気付かれるだろうに………」

 「申し訳ありません。ですが、縄で縛ってありましたし、気付かれても問題は無かったかと………」

 少し動揺する。

 「『基本その11: 少し動けば簡単に解ける様な縄の縛り方は『縛った』とは言わない。』。」

 それを聞いて観念したらしい。

 「おみそれいたしました。」

 「侮って貰っては困るよ、シェリー君。

 そもそも、あれを教えたのは他ならぬ私だ。」

 縄の縛り方に関しては幾つか教えたことが有る。

 一か所引けば解ける結び方、片手で容易に出来る結び方、暴れる程きつく結ばれる結び方………。

 無論、『縛ったら切断以外に解く方法が無い縛り方』も幾つか教えてある。

 が、シェリー君の縛った方法は割と簡単に解く事が出来る方法であった。

 一応、誤魔化そうと努力はしていた様なのだがね。

 「あの………」

 「良いさ。それが君の選択だ。私は文句は言わんよ。が、本当に危険を感じた・・・・・・・・・時は・・容赦の無い様に。」

 「解りました。」

 まぁ、どちらにしろあの三人には害意は無かった訳だし、今回に限っては無意味な心配だった訳だし、良いとしよう。


 「ガゥガゥ!」


 「………ところでその熊は…どうするのかね?」

 しれっと連れて来た熊を見て訊ねる。

 「………後で考えます。」

 やれやれ。

 「ガゥガゥ。」



 一方、縛られた三人組はどうなっているか?

 「……………行ったかい?」

 目を少し開けて周囲を見渡す赤毛女が一緒に縛られた二人に問う。

 「見た感じ、」「もう居ないみたいだなぁ。」

 二人も薄目を開けて周囲を確認すると赤毛女は目を開けて、縛られながら体を投げ出した。

 「………やられたねぇ………………。」

 「まんまとしてやられっちまいまして……すいやせん。」

 「まぁ、良いんじゃねぇのぉ?姐さんもわざと寝たふりしてたみたいだしよぉ。」

 細男の言葉に赤毛女が凍り付く。

 「えぇ!そうなんですかい⁉なんでまた⁉」

 大男が困惑する。

 「…………し……仕方ないだろ?三人相手にあれだけの事やった奴だ。

 あの子がアタシら三人とやり合えばアタシらが確実に負ける。だから寝たふりしてやり過ごしたのさ。」

 少しの動揺と言い訳がましさがにじみ出ている。

 「まぁ、責めやしません。

 馬車を横転させて、いの一番に相手を心配するような子でさぁ。勝てっこねぇ。」

 大男が笑う。

 「まぁ、様子見って思って寝たふりしたんだがよぉ。あそこまで丁寧にされると起きるに起きられない気持ちは分かるなぁ。」

 細男もそれに続く。

 「アンタ達……………。」

 縛られながら三人が笑い合う。

 「で、どうする?あのブツを運ぶかい?それとも、あの子を追うかい?」

 赤毛女が二人に問う。

 「そうですねぇ………ブツを運ぶのはもう飽きましたし………」

 「真面目に働くかなぁ。」

 「そうさねぇ。あんな仕事やってたんじゃぁ………………4人目は迎えられないからねぇ。」

 三人の頭の中には共通の人の顔が浮かんでいた。

「真っ当な仕事して」「あの子と次会った時によぉ」「胸張って会えるようにするかねぇ。」

 三人はほどけかかった縄を解き、馬車を立て直すとその場を後にした。










 後には隠してあったものが遺った。

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