鳴き声にツタを重ねて
セミの鳴き声が耳に馴染むように、痛みにも鈍感になっていった。
慣れの恐怖。
文字にすることを忘れた感情の芽は、嵐の季節を待ち続ける。
路肩に寄せられた積雪。
薄暗く淀んだ色はかつての純白を忘れた。
胸の内から生まれた衝動は、吐き出すところを知らずに揮発する。
そういった類の人間からは、まず欲が消えてゆくらしい。
物欲が消え、性欲が消え、最後に残るのは燻ぶった赤黒い炭。
息を吹きかければ腫れあがり、雨粒で鎮火するほどのはかない熱。
生暖かな命は燃えなどしない。
情熱などという言葉が称賛される時代はとうに過ぎた。
自らを追い立てる突風も、美術館に晒されるような羨望も、電波の小枝に支えられた偶像も、何一つとしてあなたと私を満たさない。
三次元に生きる私たちの神様が四次元だとするのならば、どのように踊ればいいのだろう。
何よりも、心弾む瞬間を。
音楽の女神が発する美声には、ツタのようなベースが存在する。
単独では成しえることのない、美しい重なりが心を共鳴させる。
恐怖や怠慢や焦りが凛とした音を出すことが無いように、やってやった事しかあなたを支えることはない。
神さまとは人間の想像だ。想像は無数の共鳴する重なりから発生する。
故に音を重ねることだ。
単純に単純を重ねた、私だけのいい音色をタイミングよくひたすらに出し続けるしかない。
凝り固まった石のように、音を吸い殺すのではなく、鈴の内側で振動する叫びを凛と揺らせ。
手の鈴を鳴らすように鳴き続ける人間の叫びが日常を支え、誰かの響きに繋がるのでしょう。
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