第5話 最弱召喚士、予期せぬ洪水を呼び寄せる
「ふわぁぁ……」
「どうした? 毒にでも中てられて眠れなかったのか?」
「トルエノは初めから知っていたの? イビルがあんな……ああいう意味での毒を放つなんて」
「くくっ……違うな。ライゼルが受けた毒は、幻聴によるものに過ぎない。耐性スキルは今どれくらいになった?」
耐性スキルといえば、イビルの毒を喰らう前に500にまで上がっていたはず。
「――え!? 5万? な、何でこんなに跳ね上がってるの……」
「キサマは特異的存在なのだろうな。子供の姿にされてしまったとはいえ、我を召喚出来たことが何よりの証。召喚スキルだけが最弱となれば、これから召喚を続けて行けばキサマ自身が強くなるかもしれん……そうなれば、どこぞの召喚に頼らずとも我は元に戻れるはず」
目を閉じると、暗闇の中にスキルと数字が浮かんで来るようになった。
召喚スキルに限っては全く見えなくなっているものの、召喚に関係の無いスキルが何故か見えていて、しかも増え続けているのが不思議だった。
「え、でも召喚スキルが増えないのに、召喚し続けたところでトルエノやイビルのような強い召喚が出来るとは限らないよ?」
「つべこべ言わずに召喚しろ。何が起ころうとも、我がキサマを守ってやろう」
サラリと嬉しいことを言い放つトルエノではあるけど、イビルの毒に関しては何も言わなかった。
「ふぁぁぁ……うーん……おはよぉ、ライゼルちゃんとトルエノちゃん」
「イ、イビル。お、おはよう」
「ライゼル、我はこの先を見て来るぞ。キサマはイビルに甘えておけ」
「えっ、そ、そんな……」
「あれぇ? トルエノちゃんはどこに行くのぉ?」
「そ、そそ……そうだね」
夜の毒舌キャラは幻聴による毒だったのか、起きて来たイビルは、可愛いあくびを見せる母さんにしか見えない。
「ライゼルちゃん、お水飲みたい~」
「それもそうだよね……って、あ! 水が無くなってた……この先に川、いや村があったら立ち寄ろうか」
「うふふっ! ライゼルちゃんについて行くよぉ~」
「は、はい」
耐性スキルが上がっていても、毒舌は別の意味で慣れないと駄目みたいだ。
『ライゼル! この先に村がある。イビルを連れて、早く来い!』
この先の様子を見に行っていたトルエノの声が、離れた所から聞こえて来た。子供の姿だからなのか、元気で甲高いトルエノの声は、渇いたあぜ道に通りまくっていた。
「村があるみたいだね。イビル、行こうか」
「はぁい! お水っお水~!」
「は、はは……」
楽しみにスキップしながらついて来るイビル母さん。見ている限りは癒されるのだから、慣れるしかないかもしれない。
「ようやく来たか」
「ご、ごめん。それで村の中はどんな感じなの? 水とか貰えたらいいんだけど」
「キサマの目で確かめてみるがいい」
「んー! トルエノちゃん! ぎゅーっ!」
「……ライゼル、早く見て来い!」
「う、うん」
イビル母さんに抱きしめられるトルエノは、特に反抗も怒ることも無く、されるがままにしていた。
トルエノに抱きつくイビル母さんの微笑ましい光景を尻目に、村の中へ足を踏み入れると呆気に取られた。
「そ、そんな……何で」
俺一人で立ち尽くしていても仕方がないので、すぐに外に出てトルエノに聞いてみることにした。
「……あ、あのさ、村なんだけど……」
「言っておくが、我は何もしていない。人間の世界でもあり得ることなのだろう?」
「そ、それは……でも、どうしてこんな……」
「ライゼルちゃん、青白い顔をしてどうしたの? お水貰えなかったのかなぁ?」
「む、村が廃れていて、あの……誰もいなくて」
「あらあら~まぁまぁ! そうなのぉ?」
俺はロランナ村から出たことがほとんど無い。だとしても、他の場所に村や町があることくらいは分かっていたつもりだった。
「キサマの村には偉そうなノミがいたようだが、他の村から人間を集めて大きくしていたのではないのか? そうでなければ、獣の襲来があったとしても廃村になることは無いはずだ」
「そ、そうか。ギルドに集まっていた人たちも含めて、近くの村人たちは、ロランナに移って来たのかもしれないんだ」
「くくっ……村が無くとも、水など得られるはずだ。キサマならな!」
「へ? 俺が水を出せるって意味?」
「キサマは召喚士だろう? 水精霊くらい呼べばいいだけだ」
「お水~! ライゼルちゃん、お願いね!」
「でもスキルがあっても無くても、ワームしか呼べていなかったし……まして精霊なんて呼べないよ」
「我とイビルを呼べたキサマであれば、スキルに関係なく呼べるはずだ。いいから呼べ! そうでなければ、イビルが渇いて毒を吐くかもしれんぞ?」
「そ、それはまずいよ!」
イビル母さんのこともあり急いで目を閉じると、やはり召喚スキルは0のままだ。
トルエノの言う通り、俺やトルエノはともかくとしても、植物妖精でもあるイビルが枯れたら大変なことになるのは想像出来てしまうし、夜の毒性も強力になるかもしれない。
「よ、よし……そ、それじゃあ呼んでみるよ」
通常、水精霊を呼び出す時は自然の川から、力を借りるつもりで召喚する。今回に至っては辺りに川は無く、目の前には廃村があるだけ。
水の要素は廃村からは感じられなく、村の入り口に水車があったかのような面影があるくらいだった。
スキルに余裕のある上級召喚士なら何も問題は無いのに、スキルが無い自分なだけに、召喚するにはイビルを呼び出したような呪文を勝手に作るしか方法が無かった。
「え、えーと……水の精霊よ、ここに~」
――と言ったものの、何も現れない。
「……どうした、ライゼル。何も気配を感じぬぞ?」
「ライゼルちゃん、頑張れ~!」
「何の要素も無いし、スキルも……」
「スキルのことは忘れることだ。キサマは目に見えるスキルに頼りすぎているからこそ、呼べぬのだ」
「うう、そんなこと言われても……」
こうなったら適当に強そうな呪文を言えば、何かは出てくれるかもしれない。
「えっと……其は、
とにかく水に関わる何かが来てくれたらいい……そう思って、何も考えずに難しそうな言葉を並べてみた。
「キサマ、ライゼル! 今すぐここを離れろ!」
「へ?」
「流されたくなくば、丘にでも上がれ!」
「わ、分かったよ」
珍しくトルエノから注意を受け、急いで丘に上がると、実はとんでもないモノを呼んでしまったことに気付かされた。
「あらあら~? 何が起こったの~? ライゼルちゃん、何を呼んでしまったの?」
「あわわわわ……な、何で……む、村が……」
「ライゼル、廃村で良かったな。もし人間がいた状態であったなら、キサマは人間を敵に回していたかもしれぬぞ」
「お、俺は何を呼んでしまったの?」
目の前に広がる光景は、衝撃的だった。
廃村はあっと言う間に濁流にのまれ、そこに村があったことを忘れてさせてしまうくらいの勢いで、沈んでしまった。
「あの爺はヴォジャノーイというカエルだ。水車あるいは水門がある場所を好み、災いを起こして、そのままどこかへ消えるタチの悪い奴に過ぎぬ。召喚した者が女であれば契ったかもしれぬが、ライゼルが男というだけで構わずに消えたようだ」
「カ、カエル!? カエルでこんな被害になるなんて……」
「だが、植物妖精にとっては恵みの水となったようだ。イビルが渇きの状態になっていてもライゼルには災いとなっていたかもしれないし、持ちつ持たれつといったところか」
適当召喚で災いを呼んでしまったけど、渇いた植物にとっては助けたということになるなんて、つくづく廃村で良かった。
召喚したモンスターと言って正しいかは分からないけど、彼女たちに守られながら人間を敵に回したら、俺はどうしていくべきなんだろう。
言い返したくても出来なくて、村を出る原因となった召喚士二人の問題もあるし、両親の行方も気になるし、今後は言葉に気を付けてまともな召喚をしていくことを目指そう。
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