第31話


双子というだけで、誰からも忌避されるものではない。実際にオーラル王子とエブリスタ王女は一部以外から愛されていた。

神殿が『』として嫌っているだけで、国民は誰も双子を嫌っていない。国民の中にも双子はいる。そして神官たちの「浄財を神に捧げないと双子によって不幸になる」という言葉を誰も信じなかった。

次に神官たちは言った。


「双子が生まれるのは、親が犯した罪を裁かれるためだ」


そして当時の王太子殿下と王太子妃殿下に双子が生まれた。


「双子が生まれたのは王太子殿下と王太子妃殿下が神のお怒りに触れたからだ」


止めればいいのに、一部の神官がそう言ってしまった。

それまで『お布施集め』としてお目こぼしを受けていた布教活動は、厳しい取り締まりを受けることとなった。捕縛された神官たちは『神教しんきょう国』へ強制送還された。

神の教えを布教するため、各国に送られていた宣教師が、『博愛の精神』という神の教えに背く行為をしていたこと。なにより『王太子夫妻のお子誕生』という祝い事に、祝辞ではなく凶事きょうじを口にしたのだ。


「よく追放処分だけで許されたものだ」


「祝い事ということで恩赦されたのだろう」


「処刑されておれば、まだ良かったものを」


「送り返される間に自死しておれば・・・」


生きて神教国に戻った宣教師たちに、国の人たちは冷ややかな目で見る。・・・いや、親兄弟でさえ「その者は神官の道に入りし時に、我が一族との縁を切り新たに神と縁を結んだ。すでに我が一族の籍に名はない」と切り捨てられていた。

神の教えでは自死は赦されないが、彼らは神の教えに背いた者。自死を選んだとしても問題にならなかっただろう。


彼らは、主神殿の奥深くにある『祈りの塔』に入れられた。教えに背いた彼らが、朝から晩まで食事と睡眠以外は神にゆるしをうために祈り続ける・・・個室の懺悔部屋。

最低でも五年、罪によっては十何年も出ることが許されないその部屋。日数を知る方法もなく、唯一、手の届かない高さにある窓から見える空の明るさと、朝夕に与えられる食事で大体の時間が分かる程度だ。誰とも話すことはない。行動はベッドと床に開いた排泄用の小さな穴、食事が差し入れられる開閉式の小さな穴。机はないため、布団を畳んで開いた場所が机代わりだ。椅子もないため、石畳の床に直接座る。入浴は許されない。せめて、食事の際に出される手拭きで身綺麗にするしかない。


塔から出されても、神殿で再び始まる生活は彼らにとって『針のムシロ』でしかない。通常の神官とは違う腰帯を使う。『神の使徒』を意味する白色ではなく『罪を犯した』茶色だ。ちなみに塔にいた時は『罪人』を意味する黒色を使っている。

そして、世情にうとくなっているため宣教師として国外に出ることは二度とない。神官に籍を置いているが、神殿の下働きとして最下位で働くこととなる。


そんな中、逃亡騒ぎが起きた。

逃げ出したのはアストリア国から国外追放処分で強制送還させられた者たちだ。知らせを聞いたアストリア国は国境を封鎖した。通過するには身分証があることが条件だ。さらに荷物もあらためられた。

彼らが向かったのはアストリア国の北側。魔物の巣を荒らし、北側からアストリア国へ侵入した。



魔物の襲撃は、計画的に引き起こされたのだった。

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