第18話


鍋に『マルニ』の実と同量の砂糖を加えて1時間置くと、鍋の中には果汁が出てくる。そうしたら、鍋をコンロに乗せて火にかけて、時々灰汁を掬いつつ焦がさないように木べらでゆっくり混ぜながら煮詰めていく。鍋の中がドロリとしたら、煮沸消毒した耐熱ビンに詰め込んでフタをする。

今朝はマルニの実が大量に取れたから、ジャムが55個分作れた。ビンが足りずに余ったジャムを、移し替えた器ごと水で冷やして粗熱を取って牛乳を混ぜると、プルンとしたスイーツが出来ました。


「ン。今日も上出来♪」


「レリ。キズ薬貰うよ」


「シュリ?もう訓練終わったの?今日は早かったのね」


出来上がったばかりのスイーツを、味見と称してひと口食べて笑顔になっていたレリーナにシュリは微笑み、背後から優しく抱きしめる。


「いま何時だと思ってるのかな?」


「え?もうお昼?」


「そうお昼。お天道様はもうすぐ真上になるよ。ところで、ボクたちのお昼ご飯は『コレ』なのかな?」


シュリの言った『コレ』とは、いまレリーナが木のおたまで味見していたスイーツだ。


「え?!ち、ちがうわ。ちゃんと下準備は出来ているのよ」


慌てるレリーナを見て愛しさが込み上げてくる。


「シュリ?離してくれないとお昼の支度が出来ないわよ」


「ン。もうちょっとだけ」


「キズ薬も塗るんでしょう?」


「レリの存在が、ボクの『特効薬』」


シュリは家でレリーナと二人だけの時、時々一人称が『ボク』になる。通常は『オレ』と言っているが・・・。

シンシア曰く「シュリって、レリの前では『甘えん坊のまま』なのよ」とのこと。


レリーナは『自分だけに見せる甘えた表情』を実はコッソリ嬉しく感じていたりするのだった。



シュリが休憩を終えて午後の警邏に向かうと、レリーナは部屋の掃除と薬草の在庫を確認すると夕食の支度を始めた。

ボウルに小麦粉を入れて水と塩を加えて混ぜ合わせる。捏ねて、ひと纏めにしたら、ボウルの上に濡らした布巾を乗せてフタにして生地を休ませる。

野菜を切っているとシュリがちょうど帰ってきた。


「お帰りなさい。今から作るから、お風呂に入ってきて」


「ただいま、レリ。お袋からジャムのお礼だって小麦粉貰ってきたぞ。ジェシーからはチーズだ。新鮮なミルクは明日の朝届けてくれるそうだ」


「ありがとう。今からピザを焼くわ」


「分かった。じゃあ、先に風呂に入ってくる」


「寝ないでね」


「焼けた時に出て来なかったら起こしに来てくれ」


「先にピザを平らげてからね」


そう言って笑うレリーナに、シュリは口づけを落として浴室へと向かった。

シュリは疲れていると、湯船に浸かるとそのまま眠ってしまうことがある。溺れることはないし、お湯の温度が下がると目を覚ますため、レリーナはそのままにしている。


「だって。シュリの方が身体が大きいから湯船から出せないもの」


それに現在いまは身体に負担をかけるようなことは出来ない。

レリーナのお腹には『新しい生命』が宿っているのだから。

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