第15話


「神官長。今までありがとうございました」


オルガは神官長に頭を下げた。深く深く。感謝を込めて。

幼い頃からずっと守ってくれた『父親』ともいえる人。

そして、『家族』として無償の愛を与え続けてくれた人。


「これからどうするつもりですか?」


「オルスタ村に向かい、エイギースの悪事を止められなかったことを謝罪してきます。その後はまだ決めていません」


「・・・そうですか。オルガ。あなたに神のご加護があらんことを」


「神官長も。どうかお元気で」


オルガは部屋に戻り、纏めてあった荷物トランクを手にするとそのまま部屋をあとにする。

そのまま神殿を出ると、広場に荷馬車が止まっていた。


「オルガ殿。オルスタ村に向かわれるとお聞きしました。私どもは元・ダントン領の領都であるセタせたに向かい『王領地』になったことを領民に伝えに行きます。ご一緒して頂けますか?」


「・・・良いのですか?」


「はい。間違いなく『王都を出た』ことと『何処へ行ったか』を証言するためにも、ご一緒して頂けると助かります」


『いい口実だ』とオルガは思った。

そして、これは神官長がオルガに出来る『最後の優しさ』だった。


「それではお願いします」


オルガはそう言うと、神殿に向けて一礼してから荷台に乗った。

彼の姿を、神官長は静かに見送った。




アストリアは帝国だ。しかし、元は『王国の集合体』だ。

そのため、帝都ではなく『王都』。

そして『皇国領』ではなく『王国領』。

『皇室』ではなく『王室』なのだ。

唯一『皇帝』の存在が、この国が『帝国』だと証明していた。

戦乱に疲れた各国が歩み寄り、世界に平和が訪れた。

そういうと『メデタシメデタシ』で終わる物語のようだが、実際は各国共に疲弊し、流民りゅうみんが溢れた。

流民と国民が少ない食料と豊かな土地を奪い合い、いかりの矛先は領主へ。そして王族へと向かった。

一国で内乱が起きると、連鎖で他国でも内乱が起きていった。


自国でも内乱が起きるかも、と慌てた国々が戦争を止めて国内に目を向けた。

そして『暫定的』に出来たのが『帝国』だった。


もちろん。安定した国は『帝国』というコロニーから抜けようとした。

しかし、それはふたたび『戦乱の世』が訪れる前触れだとして、鎮火したはずの内乱の炎がくすぶりだした。

結局、どの国も帝国から抜けられず、それでも『王国の名残り』を残したがった。

それが『帝国なのに王国』という不可思議な帝国が出来上がった。




オルスタ村を訪れたオルガは、まずは神殿に足を運び神官と共に村長の家へ。

そこでエイギースの処罰が伝えられた。

そして、詳細を村人には伝えず、ただ『処罰を受けて、二度と神殿から出て来られない』ことだけを知らされることとなった。


それから、村長と神官が同行してレリーナの家に向かい、レリーナを怖がらせないように玄関の扉越して謝罪した。

家の中では、レリーナと共に村長の娘のシンシア。そしてシュリが付き添っていた。

レリーナに『なにか』あれば中断させるためだ。


「貴方はこの村の神官として残るのですか?」


「いいえ。私は指導者として不適切と判断され、神官をクビになりました」


「・・・これからはどうされるのですか?」


「私はすでに家族も帰る場所もありません。ですが、まず先に貴女へ謝罪をするべきだと思い、ここまで来てしまいました」


『家族がいない』


それはレリーナも同様だ。

自分と重ねているレリーナに気付いたシンシアは、レリーナが気持ちを整理する時間を与えてほしいと頼んだ。

宿のないこのオルスタ村で滞在する場合、神殿の部屋を借りる。

しかし、神官職を剥奪されたオルガに神殿は辛いだろう。

レリーナとシンシアのその優しさから、村長宅の客室があてがわれた。

オルガは自身を『客ではなく居候』といい、早朝から村人と共に行動してきた。田畑で土に触れ、牧場で動物の世話をして汗をかいてきた。


そんなオルガを自分の目で見て、話を聞いて、レリーナは許すことにした。

村人は、身寄りがないオルガを村に住まわせた。

そして『知識と教養の高さ』から、村長の仕事を手伝うようになった。

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