第17話
比較的温暖な気候で他国よりは裕福な国『ゼリア』。
『善王』の第二王子『トルスタイン』の婚約者として選ばれたのは『冷酷宰相』の第一子『リリアーシュ』。
そんなリリアーシュは、ひとつ年上のトルスタインのパートナーとして9歳でデビュタントを迎えた。
「私は『父上』みたいになります!」
リリアーシュのこの言葉から、周囲の者たちは彼女が『冷酷』を目指していると誤解して『冷酷令嬢』と渾名した。
彼女が目指しているのは『家族を愛し、子煩悩で優しい』父上だ。
それを知っているトルスタインは、そんなリリアーシュに相応しい男になるため『自分』を磨いていた。
「殿下。少しお時間を頂戴しても宜しいでしょうか?」
帰宅してすぐに愛娘のリリアーシュ嬢の元へ向かったはずの
「義父上。如何なさいましたか?リリアーシュ嬢の部屋へ向かわれたと思っておりましたが」
「リリィが・・・。私のリリィが・・・」
「リリアーシュ嬢が何か?」
幼い頃から侍従として私に仕えるウルことウルティアが扉を開けると、この邸の主人が部屋に入って来た。疲れたようにソファーに身を
優に30分。気持ちが幾分か落ち着いたのだろう。義父が顔を上げて、ウルが淹れ直した紅茶をグイッと一気飲みした。
「義父上。リリアーシュ嬢に何かあったのですか?」
「───────── リリィに『私は色気がないのでしょうか』と聞かれた」
ああ。と思った。本日、リリアーシュ嬢と同じ学年に編入してきた生徒の胸が、年齢のわりに大きかったのだ。さらにそれを見せつけるかのように、胸の開いたドレスを着ていた。
─── 正直な話、『生徒の服としてどうか』と思った。社交界でも、あのように胸を強調するような『はしたない』恰好は嫌悪される。もちろん、教務課から指導を受けることになった。『生徒として相応しい服の着用義務』に違反したため、授業を受けることは許されず。
当の本人は「知らなかったんだから」「編入初日なんだから」と勝手な言い訳を並べていたが、そんなことが
学院からは『入学・編入する方へ』という小冊子が事前に届けられる。編入初日はその小冊子を持ってくることになっている。学院に入る前に、その説明があるからだ。そのため、一時間前に登校する必要があった。だが、かの令嬢は指示された登校時刻より遥かに遅く、他の学生たちが登校する時刻からさらに一時間『遅く』登校してきた。
『学ぶ気持ちがない』と判断されても仕方がないだろう。
処分に納得出来なかった令嬢は、教務棟から出ると校門へ向かわず無断で校舎内に侵入し、教室を探して回った。しかし、彼女が編入するのは『普通科』だったにも関わらず『特別科棟』に入ったのだ。そこで、リリアーシュ嬢たち一学年の生徒たちを前にして言い放った。
「そこの人もそっちの人も。なんて色気のない連中ばかりなの。こんなのが私の同級生だというの?私の価値が落ちるじゃないのよ!だいたい、『ろくに育ってない、みっともない体型』で生きるなんて家の恥だわ!私なら自ら死を選ぶわ」
女性警備兵たちに取り押さえられて教務棟に連れて行かれ、『停学20日間』の追加処分を受けて強制的に帰宅させられた。
まだ『事前の手続き』が済んでおらず、入学許可が出されていない。令嬢の家から『入学希望』が出されただけなのだ。そのため、小冊子の説明を受けて、『規約を守ります』という承諾書を提出。そして当主からも『何かあれば責任を取ります』という承諾書をあわせて提出。それから正式な許可が出されて『初登校』となるのだ。
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