隠し事
焼き芋とワカメ
0-1
二年生になった四月の末、中庭の、伝説の桜の木の下で、私は告白された。
「香織、私あなたが好き」
私は驚いた。まさか舞からそんな言葉が飛んでくるなんて思ってもみない事だった。だって舞は親友だし、何より女の子だ。不思議な感覚がする。好きと言われて悪い気はしない。でも相手は同姓、舞をそんな目で見たことは、私はなかったと思う。たぶん。
でも、いったい何時からなのだろう。ずっと舞はその気持ちを抑え込んでいたのだろうか。
私が呆然としていると、舞は一瞬申し訳なさそうな顔をした。かと思うと今度は取り繕うように笑顔になった。
「ごめんごめん、冗談だから気にしないで」
でも、その声は少し震えていた。私と舞は小学校から続いて、もう七年の付き合いだ。こんなあからさまな嘘で、私を本気で騙せると思っているのだろうか。
この桜の木には、この下で告白すると永遠に結ばれるという伝説があるということは、学校のみんなが知っていることだ。舞がこの伝説を知らないなんてことは無いことも、わざわざ手紙で呼び出して、タチの悪い悪戯をする子じゃないことも、私は知っている。
そんなに私は信頼が無いのだろうか。別に驚いただけで、嫌いになったとかじゃないんだから。そりゃ、即答しなかった私がいけないのかもしれないけど、私のことが好きなんだったら、もっと信じてくれてもいいじゃないか。
「無責任なんじゃない?」
だから私は少し意地悪を込めて、まずはそう答えた。それから、
「確かに、いきなり告白されて驚いたけど、驚いただけで別に気持ち悪いとか、嫌とか、そういうのは無くて。ただ、長い付き合いだし、もう舞の知らない所なんて全然ないと思ってたのに、実はまだ知らない所があったのが少し悔しいというか、そういう気持ちを秘密にされちゃう程度にしか信頼されてなかったのが悔しいというか……」
私は何を言っているのだろうか。整理がつかない。結局、私はどうしたいんだろう?
舞の顔を見ると不安そうに私の次の言葉を待っている。ちょっと、ずるい、と思う。そんな顔してるのに断ったら、まるでこっちが悪い人みたいだ。どうすれば良いか分からなくて、助けが欲しいのは私の方なのに、それっておかしいんじゃないだろうか。
「もう! だから自分だけ言いたいことを言ってお終いなんてダメなんだから! 告白したからにはきちんと責任もって付き合ってもらいますからね!」
これで良かったのかも、自分の気持ちも、まだよく分からないけど、実際に付き合ってみれば分かることもあると思う。こんな考えで一般的には珍しい告白を受けてしまって良かったのか、もしその筋の専門家が居たのなら怒られてしまうかもしれない。そんなことを考える。
桜の花びら舞い散る中、私たち二人の間を指す言葉は、親友から別のものに変わった。
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