第8話:築城

 次の日朝早くにババ様の元を訪れた俺は、簡単に事情を説明する。

 といっても、内容は殆ど嘘なのだが。


「俺は、こいつらを連れて大魔王を倒しに行く。もちろん、こいつ等には呪縛を掛けて逆らえないようにしてある」

「左様ですか……それで村の者達とは挨拶をせずに行かれるのですか?」

「ああ、魔族を生かすどころか従えるとなると、余り良く思わない奴もいるだろうしな。そこの扉の陰に隠れている奴とか」


 俺が扉の方を指さして言うと、ドタバタと音が聞こえる。


「相変わらず、盗み聞きとは趣味が悪いな。とはいえ、そういう事だからな」

「エヘヘ、相変わらず凄いですね。でも私はもう平気ですよ! 魔族を許すことは出来ませんが、仇でもない4人を殺した時点で私も人の事言えないですしね」


 そう言って笑いながらジュリアが顔を出す。


「全く、この娘は……」


 ババ様がジュリアの頭をポンポンと叩くと、苦笑いをする。

 それから2人だけに別れを告げて、俺は魔族4人を引き連れて村を旅立つ。

 暫く進んで、村が見えなくなったところで一度4人を連れて、転移で離れた丘に移動する。


「でだ、この大陸にあまり人が住んでいないような土地は無いか?」

「はい、この南の大陸はあまり進行が進んで居ないので詳しくは無いのですが、この大陸の西の方に誰も近寄る事の出来ない広大な砂漠があります。そこなら魔物は居るかもしれませんが、人はまず居ないでしょう」


 さてと、アンダードッグに言われた方向に向けて気配探知を発動させる。

 確かに全く居ない訳では無いが、あまり人の気配を感じない土地が見つかる。

 そうだな、まずはそこに拠点を作るか。


「ああ、分かった……だが小さなコミュニティのようなものがいくつかあるな。砂漠の民といったところか?

 まあ、砂漠の中心の方にはそれでも人の気配はしないみたいだ」

「そのような場所で何を行うつもりなのですね?」


 カイザルが質問してくるが、俺は答える代わりにニヤリと笑って4人を引き連れて砂漠のど真ん中に転移する。

 照りつける太陽に、立ち上る陽炎……暑さ寒さを全く感じない俺でも見てるだけで暑苦しい。


「あ……熱ちーな」

「確かに、これは人が住めるような場所じゃないですね」


 ああ、そうだな。

 だが、俺の手に掛かればこの程度……

 俺は魔法で辺り一帯を、草原地帯に作り替え林で囲む。

 大体一片4km程度に渡って、広大な生物が住みやすい土地が出来上がる。


「えっ?」

「なにこれ?」

「これは、なんの魔法なのね?」

「タナカ様、凄い」


 突然目の前で起きた事象に、4人が全く着いてこられていない。

 取りあえず、見た目だけでもうだるような暑さは改善された。

 さらに作り出した森林地帯を、魔法によるドーム状の結界で包み込み偽装と快適化の効果を付与する。

 さらに結界には、熱を吸収して魔力に変換して常に結界維持に充てるようにすることで、省エネ化を図る。


「嘘……でしょ? 急に涼しくなったね?」

「これは最早魔法で片付けられるレベルでは無いですね」

「ん? この程度なら、魔王なら簡単に出来るんじゃないのか?」


 4人の反応を見て、俺の中の魔王の評価に下方修正を入れる。

 単純に土壌を変質させて塩分を全て取り除き、植物の種をランダムに埋め込んで魔力を栄養に代えつつ、時間を進めて成長を促しただけなのだが。

 それに、この程度の範囲を結界で覆う程度、作成自体からして俺の総魔力からすればほんの一部にもなっていないが。

 具体的に言うと4秒程度で、魔力の自然回復が追い付くレベルだ。


「さてと、じゃあこの平原のど真ん中に城を作るか」


 俺が魔力を込めると、平原の真ん中がせり上がっていく。

 周囲を木で囲み、千本鳥居(実際には100も満たないけど)を並べ、途中から灯篭で囲まれた長い階段を作り出す。

 そしてその先には鳥居を並べて、朱造りの日本の神社のような住居を作り出す。

 神社って、一度は住んでみたいなとかって思うよね?

 でも、多くの魔族や魔物を住まわす予定だから、かなり大きめに作ってある。

 これじゃ、城というよりはまさしく大河ドラマとかで出てくるような、平安時代の城のような出で立ちだな。

 肩で相変わらず、絶妙なバランスを取っていたウララがピクリと起き上がると、飛び降りて俺の周りをグルグルと走り回る。

 流石狐、神社にテンションが上がったか?


 ついでに石に苔を生やしたり、杉や松、イチョウなどを配置したりと段々とテンションが上がって来て、ますます日本色豊かな土地に作り替えていく。

 これで、後は生物を適当に連れてくれば結構楽しい事になるんじゃないだろうか?

 ヒグラシとか、糸トンボとか、カラス揚羽とか誘致出来ないかムカ娘に聞いてみるか。

 そうなると、川も作らないとな。

 滝とかもいるか……となると、どこから水を落とすかな。

 それからカブトムシとか、クワガタも外せないな。

 この世界に居るかどうかは分からないが。

 兎や、鷹、トンビに、カワセミ、鹿、それと蛇も良いな……この当たりはライ蔵やウロ子案件だな。

 そんな事を思いながら、まだ生物が何も居ない日本の神社を模した建物の中に4人を連れて入る。


「これは、変わった建物ですね」

「……でも凄く落ち着く。神秘的な雰囲気で、とてもじゃないけど魔族には似合わない気がするのですね」

「ここが、私達の城なのですね。凄くロマンチックですね!」

「流石タナカ様! これはテンションが上がる」


 4人が色々と見て回っているが、男性陣と女性陣で反応が全く違う。

 カイザルと、アンダードッグは柱や、石段、鳥居をペタペタと触り、その厳かな雰囲気に気圧されて居る様子だ。

 一方で、女性陣は落ち着きのある新緑の森林の中に、大胆な朱色の建物が主張しつつも静かに佇まい調和が取れている。この幻想的な雰囲気を全体で表現するこの住居を気に入ったようだ。

 なんとなくネネの私達が、俺にしか向けられていないような気がしたのは自意識過剰だろうな。

 北の世界でモテモテだったから、ついつい勘違いしそうになる。

 とはいえ、こいつは梟型の魔族だからな。

 首が360度回ったりと、若干ホラーだ。


 カイザルはご存知タイガーマスクだが、ほかのメンバーは梟型の魔族と、悪魔型の魔族の2人だ。

 ネネはミミズク?みたいな感じで、髪の毛が2カ所ピョンと尖っていて、顔も目がクリッとしていて口はチョコンと小さいが、なかなか愛嬌のある可愛らしい娘だ。

 唇の先っぽは黒い紅を……黒い紅ってなんだろうね?まあいいや、差したようなちょっぴりセクシーな一面もある。

 その背中には大きな翼があり、足は猛禽類独特の力強く太い足をしており、その先には凶悪な爪が生えている。

 そして、特筆すべきはムカ娘に劣るとも勝らないその2つのたわわな果実だろう。

 お尻は残念ながら尾羽に隠れていて、その形も人のそれとは違うのだろうが、まあ全体的には需要が高そうだな。


 アンダードッグは悪魔型の魔族だが、犬の要素がどこにもない。

 まあ、名は体を表すというが、こいつの場合は見た目というより、ポジション的な物を表しているんだろうね。

 といっても体は筋骨隆々で、慎重2mはゆうに超えている。

 余り、興味は無いだろうがムカつく事に男前だ。

 といっても、美形という訳では無く、力強い男らしい顔だな。

 良く通った鼻筋に、シュッとした眉毛、奥二重ながらもキリッとした目。

 口を真一文字に結んでいるのも、男前を演出している。

 髪は、茶髪で短髪だが、割と濃い色をしていることから、そこそこの保有魔力があるのだろうと思っていたが、どうやら、箔をつけるために魔力で髪の色を変色させているらしい。

 流石に黒くするのは気が引けたらしいが、元は金髪らしい……

 その辺りも含めて、見た目に実力が伴っておらずそれで居てイケイケなアンダードッグかませ犬という事だろう。


 最後のボクッコだが、こいつは……まあ、なんとも残念な見た目だな。

 見た目は10代中頃から、後半だが、実年齢は143歳とこの世界で俺の100倍近く生きている。

 言ってみたらババアだな。

 とはいえ、ボクッコの種族は長名種らしく、300歳で成人として認められるらしい。

 という事は、ボクッコに恥をかかせた責任を取れるのは150年後……とっくに時効だな。

 約束さえしなければ大丈夫だろう。

 背も低く140cmくらいか? 胸は当然無い……

 髪は肩くらいまでで前髪が目に掛かっているが、まあ終始無表情だろうから特に思う事は無い。


 さてと、取りあえず4人を連れて本殿に入ると、まずはそれぞれの部屋に案内する。

 部屋の中は自由に改装しても良いし、必要な家具があったら言ってくれと伝え俺も自分の部屋に移動する。

 俺の部屋は20畳程の畳張りの部屋で、間に襖で区切りが付けれるようにしてある。

 特に大したものも置いていない。

 服は魔法でなんとでもなるし、布団も魔法でその都度出したり収納すれば良いからな。

 とはいえ、これだけじゃ寂しいのでウララの為にアスレチックと、綿布団を敷き詰めた籠を作り出す。

 部屋の真ん中には囲炉裏を置いて、上から鍋を吊るす。

 湿度を上げる必要も、室温を上げる必要も無いが早い話が雰囲気だ。

 縁側もちゃんとあって、林が見える。

 庭には紅葉や楓を植えてあり、川と池、苔の生えた石など薄暗いながらも涼し気で落ち着く雰囲気にしてある。


 日本のお茶を作り出して、一服する。

 はあ、落ち着くわ……

 そう言えば、こうやってゆっくり過ごした事など転生してから一度も無かったな。

 そんな事を思いながら外を眺めると、思い出すのは北の世界での事だ。

 取りあえず、今日はここで1日を過ごしてから明日一度里帰りするか。


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