第48話:聖教会がおかしすぎて辛い(後編)
教会の中に入ると、そこには礼拝用の椅子が並べられてありその先に女神像が設置されている。
女神像の前には神父さんの為の祭壇と机があり、普通の教会の様相を呈している。
「案外中は普通なんだな……」
俺はそう呟くと、怪しい所は無いかと、辺りの気配を探る。
教会の右奥に扉がついており、その先から強い神気を感じる。
扉には厳重に鍵がされており、ごつい南京錠が付いていたが魔法で破壊する。
『みつけた』
その時、いつか聞いた事のある声が聞こえた。
しかし、ここには俺とウララしかいない。
という事は女神の声か?
扉を開けて中に入ると、床に封印が施された扉が設置されている。
魔法で扉ごと破壊すると地下に続く階段が現れる。
これじゃ女神じゃなくて、なにか禍々しいものでも居るんじゃないかといった雰囲気だ。
「おいっ!」
俺が階段を降りようとすると、肩からウララが飛び出し階段を一気に駆け下りていく。
慌ててウララを追いかけると、階段を下りた先に長い通路が現れる。
一直線の通路のはずなのに、ウララの姿が見えない。
あいつ、どんだけはえーんだよ!
俺は駆けって階段を進むと、壁に突き当たる。
この先から神気を感じるのだが。
俺が不思議に思って壁に手を触れると、拒絶される感覚を覚える。
この先に、何かあるのか?
俺は思い切って、壁を破壊しようとした。
『ヤメテ!』
また、声が頭に響く。
『そのまま、進んで』
それから、声が俺を導く。
そのまま進んでと言われても、目の前は壁だ。
やっぱ破壊するしかないだろ。
そう思って、思い切り壁を押してみると、一瞬押し返されるような感触を感じた後、手が壁の中にめり込む。
というより、突き抜けたといった感覚か?
そのまま思い切って前に進むと、壁を通り抜けて広い部屋に出る。
「こ……これは……」
壁の先にあった部屋は巨大な祭壇になっており、正面の十字架に女性が縛り付けられている。
これは……巫女?
日本の神社に居るような、巫女装束の女性が十字架に磔にされ、こちらを見下ろしている。
その目は閉じられ、生きているのも怪しい。
女性の前で、ウララが座って必死に吠えている。
どういう事だ?
ここに女神が居ると思ったのだが……
そう思って、取りあえず女性を十字架から下す。
「大丈夫か?」
俺の声に、微かに女性が反応する。
「おい! 大丈夫か?」
もう一度、強く呼びかけると女性がゆっくりと目を開ける。
それからこちらと目が合う。
「えっ? 貴方は?」
女性が驚いたような表情で問いかけてくる。
「ああ、俺はこの世界の魔王タナカだ」
俺が名乗ると、女性がさらに驚きに目を見開く。
それから、俺をつま先から頭の天辺まで見回した後で、首を傾げる。
「日本人?」
やはり、この女性も日本人なのだろうか?
俺はゆっくりと頷くと、今度は女性に尋ねる。
「それで、貴女は? なんでこんな所に磔に?」
俺の質問に、女性がハッとした表情を浮かべ肩を抱いて震える。
「わ……私は北条……北条香住と申します。どのくらい前でしょう? もうずっとここに磔にされている記憶しかないのですが、この世界の女神です」
えっ? この世界の女神様日本人なの?
というか、ずっと磔ってどういう事?
「貴女が女神? じゃあ、聖教会を使ってこの世界を洗脳しているのは、北条さんなのですか?」
「洗脳? 私は、もうずっとここで意思を封じられていたので、それは違うかと……」
どういう事?
さっぱり、事態が飲み込めないんだけど。
もしかして、これも人間の仕業?
その時、外から途轍もない魔力を感じる。
誰か来たな……でもこれほどの魔力は俺の国の幹部でもありえない。
そう思っていると、目の前に光の玉が現れ一人の黒ずくめの男が現れる。
「初めましてだね……僕はこの世界の大魔王の中野です」
その男が驚くことを言う。
いきなり現れて、自分の事を大魔王だと名乗ったのだ。
確かに、それに相応しい魔力は纏っているが、はいそうですかと信じられる者でも無い。
「お前が……俺は田中、一応今は北の魔王です、大魔王様とでも言った方が良いですか?」
俺の質問に、中野がフッと笑みを浮かべて首を横に振る。
「魔王に……大魔王……」
北条さんが放心状態だが、大丈夫だろうか?
ウララが一生懸命、北条さんの手足に残されている縄の跡を嘗めている。
「いや、僕より強い人に下手に出る事は強要できませんから」
確かに、この男の魔力は他の魔王達とは一線を画しては居るが、それでも俺より強いかと言われれば疑問が残る。
もし、この姿に偽りが無ければだが。
「そうか……それで中野さんはどうしてここに?」
俺の質問に中野が、空を見上げて息を吐く。
それから、ゆっくりと口を開く。
「ようやく、女神の一人を見つける事が出来た。詳しい話は僕の方から話させてもらってもいいですか?」
「ああ、頼む」
俺が中野に話すように促すと、中野が説明を始める。
「まず、僕は1万年の間この世界で大魔王をしています。ちなみに、貴方が殺したキタは私が魔力を元に作り出した最初の魔族の一人です」
そうか、それでキタは大魔王の娘として……おいっ! あんなおぞましい生物をメスで作り出すな!
諸悪の根源はお前か!
「僕が来たのは、2012年の日本ですよ? 田中さんは?」
「俺は2017年だ」
俺の3年前に異世界に転移したのに、1万年も差があるのか。
とばされる時間は、まちまちなのか?
それから、中野が話し始めた話は、にわかには信じがたいものだった。
まず、1万年前のこの地には混沌とした魔力しか無かったそうだ。
その魔力の渦の中心に引き寄せられた中野は、俺と同じく魔人として生まれたとのことだ。
そして、魔力をかき集め様々な魔族を作り、魔物を作り出し大地や植物を作り出した。
そこに、創造神を名乗る者が現れ、中野の作り出した世界を奪おうと戦争を仕掛けて来たのだとか。
人間を生み出し、勇者を作り出し、その戦争は1000年に渡り続き、余りの激しさに中野の世界は5つに砕け散ったらしい。
その際に創造神を中央の世界に閉じ込める事に成功したらしいが、代わりに中野自身も中央の世界から離れられなくなった。
そして、どうやったのかは知らないが創造神は4人の日本人の巫女を召喚し各地に派遣し、他の世界の乗っ取りから始めたとの事だ。
だが、それに対抗するために、自分の配下の中で最初に作り出した4体を魔王とし各地に派遣し、自身は大魔王を名乗ることにしたと。
だが、各地での戦いは徐々に人間側が優勢になって来た為、各魔王は苦肉の策として自分を倒したものを魔王とするよう、自身の核に呪いをかけた。
その結果、倒せば倒す程魔王が強くなるシステムを作り出し、どうにか均衡を保っていたらしい。
そこに突如現れた日本人の勇者達。
中野はこれを逆にチャンスと捉え、各地の魔王を日本人に挿げ替える為に自身も日本人の召喚を始めたとか……迷惑な話だ。
「そこまでは分かった……それでお前は何がしたいんだ? 1万年も生きて、まだ何かを望むのか?」
俺の言葉に中野が、フッと笑う。
「魔族や、魔物は僕の子供みたいなものだからね。彼らの為の世界が乗っ取られるのなんて我慢ならないだろ? 別にそこに人が住むのは構わないが、子供達の安全は確保したいと思うのが親心ってもんじゃないかな?」
確かに、行動の指針としては矛盾は感じないな。
「で、女神を見つけてどうするつもりなんだ?」
「ん? 取りあえず、勇者は魔力と引き換えに女神の神力を借りて戦うからね……今度は神力ごと封印させてもらおうかと」
おいおいおい、同じ日本人なのに救いが無いな。
こっちに飛ばされて、訳も分からずずっと磔にされて、やっと助かったと思ったら今度は封印するとか。
というか、微妙にこいつの話だけだと偏った情報しか入って来ねー。
そもそも、女神ってなんなの?
なんで、北条さんは女神なの?
こいつ、自分に必要な情報しか持ってねーんじゃねーのか?
「ちょっと、北条さんに聞くけど、なんで北条さんは自分が女神だって分かったの?」
俺に急に呼びかけられて、北条さんがビクッと身体を震わす。
「あっ、えっとこっちに来たときに、白い部屋で創造神を名乗る方に言われました。お前は女神として世界を救えと」
えー、世界を救えと言われて磔にされるとか、どういう事?
「それでなんで磔にされるのさ?」
「それは、僕も気になるな」
やっぱり知らなかったんかい!
「いや、私としては無益な殺生は許容出来なかったので、自分達が統治出来る範囲内で、上手く折り合いが付けられるように力をお貸ししてたのですが……いつの間にか聖教会を名乗る組織が出来上がって……」
北条さんが作ったんじゃねーのかよ!
てっきり、女神の手先かと思ってたけど根本から違うのか?
「最初は私を敬ってくれてたのですが、何かと過激な人達が多くてだんだんと抑えきれなくなって、仕方が無いので山奥の村に隠れて暮らしてたのですが、そこを突き止められて……抵抗したのですが、村の子供達を人質に取られて……」
あっ……やっぱり聖教会クソだ……
てか、諸悪の根源が完全に人間の件。
「やっぱり、この世界の人間はクズだな」
「というか、それも創造神とやらの差し金じゃねーの?」
俺の言葉に、中野がハッとした表情を浮かべる。
「そうか! そうだな……人間がこんなに一方的に排他的に偏るのはおかしい……」
おおい! お前も馬鹿か!
日本人馬鹿ばっか。
大体、北条さんからして君女神! 頑張れ! って言われて、女神になりきるとか頭沸いてんじゃねーのか?
元々ただの女の子じゃねーの?
大魔王も、大魔王で、完全になりきってるし。
この世界は……何かがおかしい……
違和感が半端ない。
……!
「取り合えず、中野さんはこんなとこまで来て何したいの? ちなみに北条さんをどうこうしようってのは俺が許さないから」
「えーーー? 君、魔王だよね? 僕の部下だよね?」
俺の言葉に、中野がビックリした顔をしてる。
「お前の部下になったつもりもなければ、女の子に狼藉を働く輩を放っておく気もねー」
「女の子……」
北条さんが変なところに反応してるが、今はそういう状況じゃないから。
「狼藉って……ちょっと封印されてもらおうかなと……」
「それは許さねーっての!」
「なんで?」
なんでって言われても……
まあいいや、中野さんにはお引き取り願いますかね……
つっても中央の世界ってどこか分かんねーや。
「まあ、この世界の事は俺に任せてくんねーかな?」
「魔王の癖に、生意気ですね……僕は大魔王ですよ!」
今すぐフルボッコにして、大魔王の座奪ってやろうか?
若干イラッとした目つきで、中野を睨むとビクッとする。
「まあ、いいでしょう……取りあえず、ここはお任せします。くれぐれも成功を祈ってますよ!」
そう言って、中野が慌てて転移する。
「おい! ちょっ、待てコラー! まだ話終わってねーぞ!」
慌てて引き留めようとしたが、こちらに向かってにこやかに手を振りながら中野が消えてった。
あいつ、くっそ……食えねー奴だな。
というか、そもそもあいつはもはや日本人じゃねーだろ。
根っからの魔族の匂いがしたし1万年も魔族をやってたんだ、話も半分くらいで聞いといた方が良さそうだな。
それはそうと、
「それで、北条さんはどうする? 一緒に来る?」
俺が北条さんに声を掛けると考え込む。
「でも、私は女神ですし……魔王と一緒だなんて……」
「それだって、創造神とかって怪しい奴に押し付けられたんだろ? ウララも懐いてるし、別に良いんじゃね?」
「そうですね……」
軽いなおい……
取りあえず、色々と聞きたい事もあるしなんとなくこの世界の実情も見えて来たからな。
やべー……どうしよう……
俺って力以外なんの取柄もないうえに、この力がなんなのか考えた事無かったな。
この世界に愛着がやっと出て来たばっかりで、創造神と戦えとか言われてもなー。
どんくらい強いか分かんないし……中野と同じくらいなら、なんとか出来そうだが。
とはいえ、まだそうなるとは、決まった訳じゃないが。
取りあえず北条さんが来ると決まった事で、ウララが喜んで飛び回っているが、こいつ人の言葉が分かるのかな?
まあいいや
「それじゃ北条さん取りあえず、俺の城で良い? 他にも日本人居るし。
「あっ、香住で良いですよ。他にも日本の方がいらっしゃるんですね! 楽しみです!」
切り替えはえーな!
こんな奴を宿敵と思ってたとか、恥ずかしーわ。
そんな事に思いをはせながら、転移で城に戻る。
***
翌日
「魔王様! 私達を置いて帰るなんて酷いです!」
「また、女連れて帰ってる……」
忘れてた……
2人からしこたま怒られた。
「それと、教会の前に居たご老人からこれを預かってきました」
そう言って一枚の手紙を渡される。
「お主、わしの事忘れてはおらぬか? しかも、無駄に回復させおって、生きながらえてしまったでは無いか! しかも女神まで連れて行きおってから、責任問題で散々な目にあったぞ! 近々殺しに行くから待ってるように」
コウズさんも……忘れてた。
こっちはガチでヤバい……
ちょっと早急に、会いに行かないとまずい気がする……
そんな事を思っていると、2人が
『それで、私達同一2位でしたので、なんなりとご命令を』
なんて事を抜かしやがった。
ので、ウロ子にラミアバージョンで膝枕をしてもらいなが、エリーに抱きついてもらって昼寝した。
凄く幸せだ……もうコウズさんも中野もどうでもえーわ。
いっそ、大魔王と創造神やっつけてここを俺のユートピアにしよう!
その時誰かが部屋に入ってくる。
「あの田中さん、今日マイ……さ……ん達……お邪魔しましたーーーー」
香住さんに見られた……
気まずい……
そんな顔を真っ赤にして逃げなくても……乙女か!
乙女っぽいなー……軽蔑されてるだろうなー……辛い……
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