第31話:宣戦布告がしまらなくて辛い(それぞれのストーリー前編)

 話は聞かせてもらったぜ!


 ……というより、エリーに記憶装置で記録した町の状況を見してもらった。


 まず、絶倫が転移した先ではまさに騎士がゴーレム族の子供に斬りかかろうとしているところだった。


「お願いします! 子供だけは! 子供だけは助けてください」


 他の騎士に抑えつけられた母親らしきゴーレムが懇願する。


「駄目だなぁ? いまは子供でも大きくなったら立派なまぞくだよなぁ? そんなやつぁ生かしておけねぇなぁ?」


 なんだこのテンプレ悪役。

 もはや、やられ役のフラグのオンパレードじゃないか?


「やめるのだ人間!」

「うっせぇ!」


 絶倫が止めに入るより早く、騎士が子供に剣を振るう。

 えっ? 間に合わないの?


 バキンッ!


 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

「人間の剣は確実にゴーレムの子供を叩き切ったと思ったら、折れていたのは騎士の剣だった」

 な……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった……


「あー坊やの頭に……坊やの綺麗な頭にたんこぶが!」

「えっ? たんこぶ? てか俺の剣……」


 母親が悲痛な叫びをあげている。

 ……たんこぶ?

 同じ心境なのだろう、騎士が折れた剣を見つめて呆然としている。

 その時騎士の背後から莫大な量の魔力を感知する。


「この腐れ外道どもがぁ! 魔王様は殺すなとおっしゃられた……ならば死ぬより辛い目に合わせてやるわぁ!」


 絶倫の身体が黒く変色する。

 元々いろいろと黒いが、まさに漆黒……目も鼻も口も見えぬ人型の闇と化す。

 それから瞳があるだろう場所に切れ目が入り、黄金の目が現れる。

 そして口のあった場所は真横に裂け、真っ赤な口と舌が現れる。

 規則的に並ぶ牙が凶悪さをさらに演出する。


「あ……あ……」


 あまりの恐怖に騎士が言葉も出せずに後ずさる。

 母親のゴーレムを押さえていた他の騎士達も、慌てて逃げだす。


「来いレラジェ! 奴らに救いの無い苦痛を与えよ!」


 絶倫の呼びかけに一人の悪魔が現れる。

 漆黒の弓矢を手にした、緑の甲冑に身を包んだ悪魔だ。

 レラジェが一度……そうったった一度を矢を番えて弦を引き絞って放つ動作をしただけで無数の矢が放たれ、騎士達の四肢を貫く。


「いてー! なんだこれ……あ……ああ、手が……足が腐ってく」

「ぎゃあああああ、痛い!痛いよー」

「あ……手がもげた……」


 矢が刺さった個所が壊疽を起こして腐り落ちていく。


「どうした!」

「おいっ! 大丈夫か? すぐに治してやるから待ってろ!」


 慌てて駆け付けた神官たちが、あまりの惨劇に一瞬言葉を失ったがすぐに持ち直して治癒の魔法を行う。


『ハイヒール』


 同時に複数の神官により、上級の回復魔法が放たれる。


「いてー……いてーよ!」

「うわぁ……肘が……腕が……」

「あ……感覚が無い……太ももから下の感覚が……」

「ばっ! 馬鹿な! 回復魔法が効かないだと?」


 え……えげつねー……

 回復も効かないとか……呪いの類か?


「ホッホ……今さら遅いですよ? 頭が高いわ下郎共が! グラビティプレス!」


 絶倫が叫ぶとともに、神官が地面に磔にされる。


「か……体が重い……」

「ふ……服が……誰かローブを脱がせて……」

「う……動け……ぐ……ぐはっ……」


 あっ、肺が潰れたか? めっちゃ血吐いてる人も居るし……

 こっちはもういいわ……蛇吉はと……


「さてと、まとめて掛かってくるが良い!」


 おー、こっちは勇者パーティ10人を相手してるのか……


「くっ! 嘗めるなよ蜥蜴野郎!」

「死ねや!」

「リザードマン如きにこれは過剰戦力だろ?」


 とか言いながら、全員が全力で攻撃を仕掛ける。


 チンッ


 刀を鞘に戻す音がする。

 すげーな……瞬殺だわ……

 一瞬で40回の斬撃を放ってたな……おめでとう聖闘士目指せるぜ。

 距離からみるに、マッハは越えてるからブロンズ以上、シルバー未満か?


 他の面々も危なげなく勇者達を鎮圧していってるな……

 てか、幹部直々に来なくても部下派遣してもええんやで?

 あまりの余剰戦力っぷりに、完全に指示間違えたって感じやな……魔王反省……


「チッ……チビコちゃん?」


 おっと……スッピンのところにチビコ登場か……

 魔族と勇者の戦場に人間の女の子って異様やな。

 ウララがしっかりと付いて来てるけど、お前居てもなんの役にも立たんやろ?


「はぁ……はぁ……スッピンさん……」

「どうしたの? 城で待ってなさいって言ったじゃない……」


 スッピンが驚いた様子でチビコを問いただす。


「おい……あれ人間だよな?」

「なんであんな所に? もしかして攫われてきてたのか?」

「うわぁ……魔王ロリコンかよ……きめー」


 おい! お前ら!

 俺は無実だ!

 あとロリコンって言った奴!お前は殺す!


「どうしたスッピン?」

「あ、モー太殿……チビコがここに」

「なにっ?」


 モー太がスッピンの元に駆け寄ってくる。

 それから、すぐそばにチビコが居るのを見つけて驚く。


「チビコ! 城で待ってるモー! ここは危ないモー!」


 おー、こんな時まで語尾にモーを付けるとは。

 なかなにやりおるな! 後で褒美を取らせよう。


「家が……家が心配で……一度燃やされちゃったから……」


 ああ、そういう事か。

 街が戦場になってるという事で、心配で戻って来たのか。

 家が燃えてもなー……


「魔王がいるからでーじょうぶだ!」


 って感じだし、大人しくしてたら良いのに。


「しょうがない、モー太殿チビコと共に一度家に!」

「分かったモー……なんなら俺が家を守ってやるモー!」


 おい! お前は家一軒じゃなくて、国を守れ!

 まあいいや、町も魔王が居るから少々壊されてもでーじょうぶだ!

 ってそうじゃない!

 俺は大工じゃねー!


 そうこうしてるうちに、チビコの家が見えてくる。


「あ……家が……」


 そして見えるのは煌々と燃えるチビコの家。


「汚物は消毒だー!」


 楽しそうに火炎魔法を放ってるアホな魔法使いが居る。

 おいっ、あいつ召喚者じゃねーよな?


 ザワ……


 辺りの空気が一変する。

 スッピンを中心に冷気の渦が巻き上がる。

 大丈夫だから!【時間包装紙タイムラッピング】で直せるから。


 あれ? 家の前に誰かいる。


「チビコ……すまん……私達も頑張ったんだが……」

「チビコちゃんの家、守れなかったですわ」

「くっ……人間なのに……いや、人がこんなに醜いとは……ランス……カインが正しかったのか……」


 おおビッチスリーもそう言えば町に住んでたんだったな。

 なんか、それぞれお気にの魔族見つけて馴染んできてたから、忘れてたわ。


「みんな怪我してるじゃないですか! ごめんなさい……チビコの為にごめんなさい……」


 チビコが3人に駆け寄って、泣きながら抱き着く。


「ゴメンよ……勇者の仲間だったのに……」

「家一軒守れないなんて……」


 ザワッ……


「お前らぁぁぁぁぁぁ!」

「貴様らぁぁぁぁぁぁ!」


 うわぁぁぁぁぁぁ!

 これか、戦場で感じた怒気は……

 てか、ヤベー……ニゲテ―! 人間の皆さんニゲテ―!


「はぁ……はぁ……駄目だ……こいつら……絶対に許せない……」

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 一気に二人が魔力を全開放する。


「な……なんだこのバカげた魔力は!」

「あっ、あいつら……2人ともこれまで見た事の無い魔力量だ……」

「ま……魔王?」


 周囲から、勇者や騎士、魔法使いに神官が集まってくるが、あまりの迫力に手も出せずに居る。


「殺す……貴様ら……全員殺す……」


 モー太さん? 俺の命令は? これ止むおないかなー?


「フッフッフ……どこまでも私を怒らせますのね? 私如きを……私達如きを魔王様だ……と? その程度も見抜けぬ雑魚が調子に乗るなぁぁぁぁぁぁ!」


 スッピンさんも、少し落ち着こうか?

 十分貴方達、比嘉より強いから……東の元魔王より強いからさ……勘違いしちゃうって……だから、人間勘違いしちゃうってーーーーー!

 まあ、記録映像だから突っ込もうが、何言おうが歴史は覆らないんですけどね。


「あ……あれで、魔王じゃないだと……」

「か……幹部であれ……」

「ええぃ! 魔王軍の幹部は化け物か!」


 だからちょいちょい、日本人居るよね?

 どいつだ?


「グォォォォォォォ!」


 あっ、ベヒモスモー太の雄たけびで半分が小便漏らして気絶したわ……

 つか、よえーな人間。

 ……ちなみに、チビコとビッチスリーも気絶してるけどね。

 学習しようよ……モー太。

 だから怒られてたんだね……モー太。


「心行くまで喰らえ【牢獄開放プリズンブレイク】!」


 のっけから全開ですねスッピンさん。

 スッピンの放った死霊が、勇者達の魂を喰らい具現化する。


「モブ勇者!」

「モブ騎士が……モブ2騎士も喰われた……」

「あ……あの鎧は……」

「ま……まさか! だが、昔見た書物と一致する」

「失われた……アテネの聖鎧……」


 あーあ、あっさり殺しちゃってるよ……

 てか神官達の様子がおかしい……


「行け! メレッド共!」


 あかん……勇者をアンデッドにしちゃあかん!


 あれ? スッピンが殺した奴等に手を翳すと、普通に復活してる……

 スッピンて復活魔法使えたのね……まあ豚やイカも使えるし……ってあんたアンデッドやん!

 自分に使えよ!


「こ……この力は……」

「や……やはり……伝説の勇者にして聖女……ヒルド様……」

「7人の従者を従え、戦場で死者を蘇らせる奇跡を起こしたという……」

「あー、ここに我らの主がいらっしゃった……」

「だが聖女ヒルド様は……200年前に前魔王に挑み、アテネの聖鎧と共に行方が……」


 結構な大物だったんですね……貴女。


「フッ、目が覚めたか……良いかお前ら! 女神はこのような事は望んではおらぬ! 聖教会は……薄汚れた権力の塊だ」

「ばっ、バカな……」

「私が殺されたのは魔王ではない! 聖教会に殺されたのだ!」


 ナンダッテー!

 その衝撃の事実に現場の僧侶、神官達も、そして俺も言葉を失う。


「奴らは……魔王に挑む前日に私の従者を全て毒殺した……そう希望の町でだ!」

「そ……そんな! 何故?」

「う……嘘だろ? 当時、唯一魔王に手が届くと言われたヒルド様を……」


 てかそんな昔から教会は腐ってたのか……

 スッピンはヒルドって名前だったんだね……


「そこからは、私が説明します……」


 具現化した死霊の一体が人間の姿となって現れる。


「あ……貴方は当時ヒルド様に従った伝説の聖騎士……フェルディナンド様……」

「如何にも……エインヘルヤルとなって彷徨っていたところを、ヒルド様に復活させてもらったのだ」


 お……おう、死霊も元はそこそこの人達なのかな……

 てかスッピンの力が留まる事を知らない。


「わしらは、希望の町で教会に最後の英気を養う為にと晩餐会に招かれ……殺された。何故か? それは人気が増えすぎたヒルド様が魔王を倒したならば、枢機卿として招くという教皇様の言葉があったからだ」


 あー、そりゃ面白くないよな?

 女で勇者で……たぶん若かったんだろう……そんな奴がいきなり上司とか……

 てか、教会関係者クズだな……


「し……しかし、史実では7人の従者は魔王城に着く道中で徐々に倒れ、満身創痍で辿り着いた聖女様は」

「誰がそれを報告した? 魔王にはわしらしか行く予定では無かったのじゃが?」

「うっ……確かに……」


 フェルディナンドの言葉に辺りに沈黙が漂う。


「わしらも毒に対してそれなりに抵抗は持っておったが……それでも完璧に防げる訳ではなく毒で弱った所を……そして、ヒルド様は奴等に四肢を切り落とされ魔王領の端に捨てられたのだ!」


 ……


 酷いわ……人間マジでクズだわ……聖教会潰すよ……

 本気で潰すよ……

 てか、女神もそんなん天罰もんだろ? その辺りも含めて探りを入れないとな……


「私は全てを呪ったよ……救うべき人間の代表とも言える教会に裏切られた訳だからな……そして仲間の7人の魂を身に纏い……生きたままに木乃伊となった……いずれ魔王を滅ぼし! 聖教会を滅ぼす為にな!」


 即身仏って奴か……神の領域にまで辿り着いているな。

 てか、俺も滅ぼすの?


「だが……私を救ったのは新しい魔王タナカ様と……そこに居るチビコだ……タナカ様のお陰で魔族も全てが悪で無いと知り、チビコのお陰で人間の優しさを思い出した……思い出したのにお前らは! タナカ様の町とチビコの家おぉぉぉぉぉ!」


 そりゃ切れるわな……


「申し訳ありませんでしたー!」


 その時一人の神官が土下座を始める。


「わ……私たちは……なんと罪深い事を……」

「ヒルド様の……ヒルド様の思い……痛い程分かります」


 あー、こいつら死んで復活してるから、正常な判断が出来るようになってるのか。


「私たちは、ヒルド様に着いていきます! 魔王の部下になるのは嫌です! 嫌ですが自分の目で何が正しいのかを今一度見極めないと……見極めないとあまりにも自分達が情けない……」

「教会の言いなりになって、そこに人としての意思など無かった……それは……それは最早人間ではない」

「ヒルド様……私はこのまま教会の人形として終わりたくありません……そして、もしヒルド様のおっしゃる事が正しいと分かれば……私が! 私が! ヒルド様の事実を世界に公表します!」

「違うぞモブ神官! 私がじゃない! 私達がだ!」


 神官たちの声に、スッピンが小刻みに震えている。

 こいつ……泣いてないか?


「お……お前ら……」

『ヒルド様!』

「お前らの気持ち! しかと受け取った!」

『ヒルドさまぁぁぁぁぁぁ!』


 何この展開……

 メッチャスッピン号泣してるし……

 神官sはスッピンの足元に縋りついて号泣してるし……

 どこの安っぽい熱血学園ドラマだよ……

 てか、スッピンて涙脆いよね……


「モー太おじさん……?」


 あっ! チビコが起きた。


「チビコ! 無事かモー?」

「無事かモー? じゃなーーーーーーーーい!」


 お漏らししたチビコが半べそで叫ぶ……


 あー、なんか平和な戦場だなー………………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る