第24話:幹部達それぞれの辛い~その1~

魔王様が振り向いてくれなくて辛いPART2~ムカ娘の場合~


 私はムカ娘この世で最も幸福で不幸な魔族の一人……

 この世で最も偉大な魔王様に仕えるという幸運と、その魔王様に恋に落ちるという不幸……

 ああ、出来る事なら混沌の果てで貴方と混ざり合い、暗黒物質ダークマターの果てに埋もれて新たな星として共に世界を育めることが出来たなら……


「なにこれ? ムカ娘頭大丈夫?」


 ……魔王様との愛のポエムをウロ子に見つかった……辛い。


「てか、蠱毒の頂点を極めた毒百足の女帝が、なんともまあメルヘンな事だな……」


 蛇吉も居た……辛い……


「これ見て? 貴方の居ない寝屋に一人帰る……これが蠱毒の果ての存在ゆえの孤独なのね? とか……寒気がしてきた」

「ムカ娘殿?」

「もー! 返してくださいな! 勝手に妾の部屋を漁らないでくださいまし!」


 2人がドン引きしている。

 ウロ子から魔王様との愛を綴ったポエムを奪い取ると、部屋から二人を追い出す。


「全くもう! あの二人は全然魔王様の魅力を理解していらっしゃらないわね!」


 そう言うとカサカサとベッドに向かい、ボフンと上半身をベッドに埋める。

 目を閉じると思い出す魔王様との甘いひと時。


「なぁムカ娘? 膝枕してくんね?」


 その言葉を聞いた時、私は天にも昇るような気持になりましたの。

 でも、自分の下半身を地に落とされるような気持ちになりました。

 どの足で?


「いや、一番手前ので試してみようと思う!」


 そんな私の想いを酌んで、魔王様が素敵な提案をしてくださる。

 一番手前の足……目の前で魔王様の寝顔が見られるなんてムカ娘死んでも良い!って思いましたのよ。


「有難う……もういいわ……」

「左様ですか……」


 膝枕してわずか10秒……

 思ってたんと違うと顔に書いてありますわよ? ……辛い


 私が落ち込んでいると、魔王様がなにやら思案している様子。

 私の上半身を嘗めまわすように見て、魔王様の顔がハッとした表情に変わりました。

 イヤン! もしかして……私の扇情的な肉体に発情なされたのかしら?


「大魔王様! コイツです!」


 いきなりウロ子が出て来た……


 このクソババア! いつか殺す!

 あっ! ちなみに私は300歳、ウロ子は350歳ですから大分年上ですのよ!

 しかしすぐに魔王様に追い出されてショボンとした様子で帰っていきましたわ。

 ざまーみろです!


「そうだ! ムカ娘! お前は腕が6本あるよな?その手で抱きかかえるようにしてみてくれないか?」

「はっ! はいっ!」


 なんと魔王様が私に抱きしめろと!

 という訳では無く、どうすれば心地よく寝られるかを考えておられた様子。

 こんな美女と二人で居るのに寝る事ばかり考えて……そんなに私は魅力がありませんか?……辛い


「重くないか?」


 魔王様を抱きかかえると、少し心配した様子でこちらを伺ってこられました。

 あまりの幸福感に重さなど微塵も感じませんわ!

 ムカ娘、魔王様なら悠久の時を抱きかかえる事が出来ますわ!


 暫くすると魔王様の目がトロンとしてくる。

 これは……誘っておられるのでは?

 いや、これだけでは分かりませんね……もっと近づかないと……はぁはぁ……


 それからすぐに目を閉じられる。

 スースーという寝息も聞こえる。


 これは……私の前でこのような無防備な姿……もうオッケーって事ですよね?はぁはぁ……


 もっと近くでご尊顔を確認致しませんと!はぁはぁ……


 これは……口づけを許可されてますのよね……カチカチ……


 ムカ娘……もう我慢できませんわ……カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ


「はっ!」


 あとちょっとというところで、目の前から魔王様が消えてしまわれました。

 何やら訝し気な様子……ムカ娘勘違いしてましたわ!テヘッ!


「失礼いたしました……あまりにも愛くるしい寝顔ゆえつい……」


 顔を桃色に染めながら言い訳をすると、魔王様が苦笑いをされる。


「あ……ありがとう……よく眠れたわ……、また頼むわ……」


 それからそう言って魔王様が物凄い速さで転移で帰られました……

 そんなに照れなくても宜しいのに……


 それ以降一度も頼まれない……辛い


***

魔王様が強すぎて辛い~絶倫の場合~


 私は絶倫……魔王幹部序列2位にして、永遠の魔王候補……

 前魔王キタ様の時にも、キタ様がもし崩御なされた場合は後は頼むと言われてた男。

 キタ様はあまりにも強すぎた。

 他の世界の魔王様が次々と代替わりされる中、唯一の原初の魔王としてそして原初の魔族として君臨され続けておられた。

 最初は孤独な存在として、唯一の魔族としてこの地に座しておられたそうだ。

 幾年の時を過ごされたのか、私には想像も付かぬ。

 だが、老いは着実に訪れていた。

 100年後か……はたまた10万年後か……いつになるか分からないが、もし誰にも倒されることなく天寿を全うした際には後は任せたと言われた男だ。


 幹部の中では蛇吉の方が確かに強い!

 だが奴は忠義の士!誰かに仕えてこそその真価を発揮する。

 そして奴もまた、


「お前が魔王となったなら、俺が剣となり盾となり側で支えて守ってやる」


 と言ってくれていた。

 きっとその時は来ないのだろうと思っていた。

 魔王キタ様はそれほどまでに巨大だったのだ……

 それなのに……


「てめー! マジふざけんな!」

「なぜじゃ! わしと寝ろ! 魔王の命令だぞ!」

「誰がこんな皺くちゃのジャバザハットと寝れるかっつーの! 童貞こじらせた奴なめんな!」

「ジャバザハットとはなんだ! わしを抱けるのだぞ? しかもわしは処女だぞ?」

「テメー死ね! 二度と俺の前に現れんな! 骨の一片も残さず消え去れや! このジャバザハット!」

「なんじゃその魔力は……馬鹿な! わしの魔力障壁がかき消されたじゃと! 馬鹿な―!」

「真性魔法使いのフォース嘗めんな!」


 そんなキタ様だが、私の部下が召喚した魔人の若造に一瞬で消し飛ばされてしまった……

 一瞬何が起こったか分からなかった。

 すぐに私は部下を纏めてその魔人を討伐しようとした。


 精鋭百人による天災級の魔法を、まるでそよ風の中散歩するかの如く悠然と歩く姿に戦慄を覚えた。


 そして何事も無いかのように外に出ようとする。


「待て! どこに行く?」

「えっ? てかここどこ? 帰りてーんだけど?」


 あまりに素っ頓狂な事を言うその男に、得体のしれない恐怖を感じた。


「くっ……魔王様を殺しておいて、無事で居られると思うなよ!」

「あっ?」


 殴り飛ばされた。

 その時、私はあのお方に魔王の覇気を感じ取った……

 そうか、新しい魔王様がお生まれになったのか……

 そして俺は一生魔王になることも敵わず、生を終えるのだろうな……


「我が主よ……一生ついて参ります」


 物理耐性が種族最高値まで鍛え上げられたのに、ただの拳で半身が吹っ飛んだのだ。

 当然だろう……

 これが魔王か……

 そして、私より若い魔人……私の方が先に逝くのでしょうな……辛い


 しかし、実際には魔王タナカ様はとても部下思いで、キタ様の時のように貞操の危機を感じる事のない平穏な日常を過ごすうちに、私は真に使えるべき君主を見つけたのだと歓喜した。


 ただ……魔王様お一人で、魔王軍全戦力で歯が立たない程お強いと自分の存在価値が見いだせない……辛い


***

自分に素直になれなくて辛い~ウロ子の場合~


 私の仕える魔王様はとても強い。

 しかもカッコいい……それなのに時々甘えん坊で可愛い……


 初めて膝枕をお願いされて、してあげた時は萌え死ぬかと思った。

 いや、厳密には私から誘ったのだけれども……


 そのちょっと前にムカ娘に、魔王様がいっつもエリーの膝枕で寝てると聞いた……なにそれ? ズルい!

 私も魔王様を膝枕してみたい!……けれども私には太ももが無い……


「そういえば、魔王様はエリー様のお膝で寝られるのが好きだとか?私の膝……使われますか?」


 それでも私頑張った!

 そしてそう尋ねると、魔王様が私の下半身を凝視される。

 そんなに見つめられると恥ずかしい……

 でも何か様子がおかしい。


「いま何か失礼な事考えてませんでしたか?」

「いや、別に……考えてたけど?太ももどこ?」


 一瞬誤魔化そうとして、すぐに諦められた……

 てか太ももどこ?って蛇にあるわけないじゃない!……辛い


「えぇぇぇ……まぁ下半身蛇なんで太ももありませんけどね。取りあえず蜷局巻くんで丁度いい高さの位置に頭乗せてください」


 しかしこんな事では諦めない。

 でも今思うともっと言いようがあったような気がする。

 暫く私の下半身を見つめて魔王様が思案する……恥ずかしくて辛い

 顔から火が出そう……

 そんな事を思っていたら、今度は私の上半身を嘗めまわすように見てくる。


「大魔王様! コイツです!」


 そうじゃない!

 挙句の果てに魔王様をコイツ呼ばわり……私もうダメだ……

 それでも何か考えている魔王様……

 そりゃこんな事言われたら、腹も立ちますよね……

 っていうより、目つきが凄く嫌らしい……

 エロい目で見てくる……恥ずかしい……


「なんか、壮絶に嫌になってきたんですけどー」

「むっ、気にするな。どれ、ちょっと試してみるか……」


 魔王様がそう言ったから蜷局を巻こうと思ったのに、そのままで良いと言われた。

 そして突然下腹部に頭を乗せられた……

 そこ……あの……なんていうか……言葉にするのも憚られるというか……

 なんでそこ?

 狙ってる? てか知っててやってる?


「そこ……微妙な位置です……」


 それとなく伝えてみたが、特に気にした様子も無い。

 絶対わざとだよね?

 と思ったら、すぐに寝息が聞こえ始めた……

 えーーー! 1時間もこのままなの?

 てか、寝るの早すぎでしょ!


「魔王様……そろそろ……」


 私にとっては永遠とも思える1時間だったのに、えっ? もう朝みたいな顔された……辛い

 その時の私は凄い頑張ったと思う……


「これ、思った以上に恥ずかしいですね……エリー様凄いです。きっとお嫌なはずなのに……」


 そんな事ない!

 凄く幸せなひと時で、永遠にこの穏やかな時が続けばいいのにって思ったのに……

 いっつも思った事が口に出せない……

 こんな自分が嫌だ……


「そっ……そうか? わしは凄く気持ちよくて、久しぶりに良く寝れたが……」

「そうですか? それはよござりましたね……」


 なんか凄くオドオドしてて可愛い……のに私ときたら……

 あと、魔王様寝ると老化の魔法が解けるの気付いてないのね……

 起きたら自然に戻ってたけど……

 てか寝顔可愛すぎる……ヤバい!


 と思ってたらそのまま転移された……

 しかも勇者達に見られた……辛い。


 その後もチョイチョイ膝枕を頼まれる。


「……別に良いですよ? 本当は嫌ですけど」


 そうじゃない! 本当は凄く幸せなのに……


「俺、ウロ子に嫌われてるのかな?」


 って魔王様がエリーに膝枕されながらボヤいてるのを聞いた。

 どこでって? そんなの魔王様の部屋の前で盗み聞きしてるときに決まってる。

 本当は飛び出してって、愛してますって言いたい……

 なのに……


「魔王様、馬鹿な事言って無いでエリーを解放してあげてください。彼女はまだ残務処理が残ってますので……」


 部屋に飛び込んで出て来たセリフがこれ……

 エリーと一緒に居て、エリーに甘えてる姿を見て嫉妬で引き離そうとしただけなのに……


「うっ、すまんなウロ子……そっ、そうだ膝枕……」

「私も忙しいのですが?……まあ、少しだけなら……」


 キターーーーー! っていう心の声がどこにも反映されてない……辛い

 私の想い……魔王様に届け!

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