第17話:さようなら女勇者ちゃん……辛い

「魔王様! 女勇者……」

「来たか!」


 ついに念願の報告がエリーからもたらされた。

 女勇者ちゃんキタ―――――!


「から、お手紙です!」


 えっ?

 手紙? レター? もしかしてラブレター?

 ってんなわけあるかい!

 どうせ果たし状ってやつだろ?


 ――――――――――――

 拝啓 

 魔王殿、この度結婚を機に勇者を辞める事にしました。

 加護は今後生まれるであろう可愛いベイビーに引き継がれる事となるでしょう。

 是非、私達の子供に殺されてください。


 女勇者:エリカ・サポーティングロール

 ――――――――――――


 ……Oh

 俺、文字読めない……

 結婚てなに……

 へぇ……エリカちゃんって言うんだ……初めて名前教えて貰ったけど、こんな形では望んでない……


「結婚とは、人間同士の風習で永久に愛を誓い、愛を育み、家庭を築き上げ、お互いを尊重し、死に向かいその生を助け合いながら全うするシステムのことですぞ?」


 うっせぇ!

 俺は思いっきり絶倫を蹴り飛ばした!

 そういう意味じゃねーんだよ!


「でしたら是非一度、妾と結婚というものをなさりませぬか? 彼を知り、己を知れば百戦危うからずです! 人間の事を知る良い機会ですわ!」


 ムカ娘がなんか言い出した……

 うっせえ!

 俺は思いっきりモー太を蹴り飛ばした!


「何するんだモー!」

「あっ?」

「……なんでもないモー……」


 対物理防御無効で蹴り飛ばしたのに頑丈だなおいっ!

 俺は知ってるぞ!

 こういうキャラは死にそうな怪我をしても、次のシーンで完治してるタイプだわ!

 現に絶倫は、未だに壁に刺さってピクピクしてるし。


 てか、何故ムカ娘が孫子兵法書を知っている?


「エリー!」


 俺はエリーの腰の辺りに抱き着いた。

 おうふっ、柔らかくていい匂いでゴザル……

 プニプニ……指でお腹の辺りを突っついてみる。


「お前……太った?」

「! ……うるさいですわ!」


 エリーに思いっきり蹴飛ばされた……

 完全物理衝撃無効なはずなのに、激しく痛い……

 そして心もイタイ……


「だっ! 大体魔王様がいつも美味しいものをお出しになるから悪いのですわ」


 確かに最近食後にケーキだの、アイスだの出して食わしてた気がするわ。

 一緒に食ってたはずのウロ子とムカ娘は全然体形変わってないけど……


「それは関係ない……私は体重変わらない……」

「妾もその程度で太ったりはせぬのう……」


 ブチッ!


「蛇や百足みたいな栄養吸収率の悪い種族と一緒にしないでください!」


 エリーが思いっきりモー太を蹴飛ばす。


「なんでだモー!」


 モー太が壁を突き破って隣の部屋まで吹き飛ばされる。

 本当にこいつら強くなってんだな……

 幹部は特に魔王の力の影響を受けるらしいが、なかなか出鱈目な事になってるようで何よりだ。


「そうか……ならば、しばらくエリーに甘いものは「そっ! それとこれとは関係ないですわ!」」


 言葉尻を食われた……

 御主人様の言葉を遮るとは良い度胸……すげー睨まれてる……ごめんなさい……


「しばらく膝枕は禁止します!」

「えっ? ちょっ! エリー! それとこれとは関係「ありますわ!」」


 ……俺は無言でモー太を殴り飛ばした。


「もう嫌だモー……」


 ちょっとモー太が可哀想になってきた。

 次は蛇吉にしよう……


「なっ? なんでござるか?」


 蛇吉が怯えている……

 なかなかに勘の良い奴よ……

 ちなみに蛇吉には武者鎧と、侍言葉辞書セットをプレゼントした。

 俺が作ったから、イメージの侍だがあながち間違っていないだろう。

 ちなみに鎧は源氏八領の一つ沢瀉おもだかを模して造ったものだ。

 なかなかに様になっている。


「膝枕なら……私がしてもいいです。」


 うむうむ……ウロ子の膝枕も絶品だからな。

 枕としては、最高だ。

 時折恥ずかしがって身をよじらせた際に、蛇の部分が波打ってさらに心地よい眠りを誘う。


「妾も腕枕なら出来ますわ!」


 そうそう、ウロ子の膝枕すごく塩梅が良かったので、試しにとムカ娘にもしてもらったんだった。


***

「なぁムカ娘? 膝枕してくんね?」


 二人で玉座の間に居る時にお願いしてみた。

 顔がパーッと華やいだかと思うと、少し曇る。


「ですが、妾には膝が……」


 膝が百あるからねー……


「いや、一番手前ので試してみようと思う!」


 めっちゃムカ娘の顔が輝いてる。


「はいっ!」


 ムカ娘が一番手前の足を前に出して折りたたむ。

 それからそこに頭を乗せてみる。

 固い……

 高くて固くて、なんとなく寝られなくも無いが思ってたんと違う……

 てか絶対肩凝るわ……


「有難う……もういいわ……」

「左様ですか……」


 凄くムカ娘が落ち込んでしまった。

 どちらが悪いというわけでもないが罪悪感を感じてしまう。

 何気にムカ娘を見てみる。

 腕が6本あるが、女性らしくしなやかでスラッとして綺麗な腕だ。

 6本あるのがキモいが……

 はっ! 閃いた!


「大魔王様! コイツです!」


 いきなり玉座の間の扉が開いて、そこから現れたウロ子が叫んだ。

 何故ここに居る?


「いま取り込み中だ!」


 俺がそう言うと、ウロ子がしょぼんとして部屋を出ていく。

 何故だ? 俺は全く悪くないはずなのに罪悪感が……

 なんか最近幹部の女性陣が可愛いと思えてくる自分が辛い……


「そうだ! ムカ娘! お前は腕が6本あるよな? その手で抱きかかえるようにしてみてくれないか?」

「はっ! はいっ!」


 ムカ子の顔が喜色に輝く。


「そっ、それでは失礼します……」


 それから遠慮するように座ったまま俺を抱きかかえる。


「重くないか?」

「いえ、これでも百足族の女帝です……たとえ魔王様が石で出来ておられましても片手で事足りますから」


 そう言って頬を染める。

 可愛いよムカ娘……ああムカ娘……

 軽くトリップしそうになる。

 確かに見た目はあれだが、うちの幹部の中で絶対不変の俺愛者だからな。

 正直嬉しい……


 それにしても……なんて心地よいんだ……


 膝の裏、お尻の下、背中、首の下に四本の腕を当てがい、頭を撫でながらも残った一本で羽扇を仰いでくれる。

 なんだろうこの包容力……まるで如意輪観音菩薩様に抱かれているかのようだ……

 菩薩様の愛は母の愛……すべてを許し包み込まれるような包容力。

 あぁ、ここが至高の寝屋か……


 俺の意識が奈落の底に落ちかけた時、目の前でカチカチという音が聞こえる。

 慌てて目を開けると目の前にムカ娘の口が……


 まぁそこまではいい。

 これだけ俺を溺愛しているのだ。

 口づけくらいしたくなるだろう……

 だが……その顎は駄目だ!


 ムカ娘の顔というのは、鼻から下は人間と一緒だ。

 だが目は虫のような目をしていて、頬から挟み込むように顎が生えている。

 そう、虫の大顎おおあぎとだ……

 興奮の余りその顎が開いたり閉じたりしながら近付いてくるのだ……

 恐怖だ……

 まさに死の接吻……

 甘く柔らかな口づけをかわした直後に、顎で両断される俺の頭しかイメージ出来ない……


「はっ!」


 俺は一瞬でムカ娘の腕から転移を使って抜けだす。


「失礼いたしました……あまりにも愛くるしい寝顔ゆえつい……」


 ついで殺されてたまるか!

 新たな快楽は発見とともに封印された。


***

「むー……魔王様は最近見境が無さすぎます! しょうが無いので……膝枕禁止は撤回します! ……ですのでその美味しいものを……その……あの……です!」


 あぁ、可愛いよエリーたん……

 なんだろう……とても幸せな状況なはずなんだけどな……

 まさにチーレム! でも、一人も人間が居ないのが……辛い


 はっ! そういえば女勇者が結婚するんだった!


 手紙を読んだ直後は絶望の谷に突き落とされたような気持になったが、いつの間にかどうでも良くなってた。

 なんだかんだで、皆で俺を元気づけてくれたのか。

 いつの間にか幹部が全員揃って俺の前で微笑んでくれている。

 ちなみに新規4人以外ね……

 今日はスッピンはチビコとデートらしい……

 あいつは本当にミイラなのか?


 てか絶倫も無傷で微笑んでる……お前もそっち側だったのか……


 今日も魔王城は平和で、俺は幸せです……


 って言ったら終わりみたいだけど、まだまだ続くよ!


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