一〇月、番外ノ編 【秋の句会】
10月に開かれたweb句会。そこに集められた78作品(内自作品10)の内から、私が選んだ6句を掲載させて頂きます。(本人了承済み)
【選句】
『舞茸を持ち献立に悩む君』/飛鳥休暇
『運動会フェンス外の親の愛』/ぬまちゃん
『秋の夜の書はなる
『豊年の香り溶けこむ紅茶かな』/いっさん小牧
『サンマ缶いつかの旬の封を解く』/野良ガエル
【特選】
『捨てられず無事に食われろ豊の秋』/空条浩
句会の中で発表させて頂いた俳句へのコメントを以下に投じます。
『舞茸を持ち献立に悩む君』
美味しい食べ物がたくさん揃う秋。夏場では食べられなかった鍋物もいけるし、まだそうめんも残っている。レパートリーが増えるのは良いことだけれど、献立に悩む毎日。とりあえず舞茸を使うことは決めて買ってきたのだけれど……と言う情景が見え、ほほえましく思いました。「君」と言うことは詠んだのは恋人でしょうか。献立に悩んでいる辺り、同棲しているか結婚しているか、そう言う関係性なのかも知れないなと言うことも想像出来て楽しい俳句でした。
『運動会フェンス外の親の愛』
コロナならではのワンシーンを上手く切り取った秀逸な句だと思いました。いろいろ禁止されて、大変みたいですからね。きっとマスクをしながら、あまり大声も出せない状態で、祈る思いでカメラを回しているのでしょう。最近はスマフォなのかな。
『秋の夜の書はなる
読と毒を掛けたのが面白いなと思いました。
それで、毒ってどんなのだろうと思ったのですが、単純に美容と健康の毒ですね。
ただのダジャレではなく、読としても独としても成立する整合性があるのが素敵だなと思いました。
『豊年の香り溶けこむ紅茶かな』
いやー、これは優雅。と言うか、優雅に午後をくつろいだ気分になりました。
豊年を感じさせるほど、畑に近いところに家があるんでしょうね。
小説に自分が出来ないこと或いはやりたいことを作中の主人公が達成することで自分も出来た気になって満足すると言うのがありますよね。この句はわずか17字でそれをやってくれている気がします。
衒いのない言葉選びが、すっと情景を呼び起こさせたのかなと思います。
『サンマ缶いつかの旬の封を解く』
パシュッと明けた瞬間が想像出来ます。
「いつかの旬」と言うのが良いですね。缶詰ですから、これを開封したのは春かも知れないし冬かも知れない。だとしたら用途は? 酒の宛て? 料理の副食に? いやー鍋にぶっ込むのかも知れない。
でも個人的には、やはり秋。テレビでおいしそうなサンマの特集があります。「いいなあ。あの店行ってみたいな。でも遠いなあ。コロナだしなあ」と言うことで近所のスーパーに行くことに。しかしテレビの影響か、なんと売り切れ。心の中で舌打ちを50回くらいしながら帰り、キッチンを漁っているとガスコンロの下の棚からなんといつか買ったサンマ缶が! いつだろう。ああ、この前の台風のときに買ったやつだ。「これはいざってときに食べるものだ」とそのときにうっかり食べなくて良かったー。ついについに、封を解きます。いざ、いざ、いざ……!
そう言うストーリーが浮かびました。
お腹すいてきた。
『捨てられず無事に食われろ豊の秋』【特選】
乱暴な「食われろ」の中に内在する深い愛情。ツンデレか!
たくさん収穫されてしまうと、廃棄処分してしまうことになってしまいますもんね。
無事に食われるかどうかというのはつまり流通量の上限を突いてしまうかどうかがわからない立場の人間と言うことですから、農作物を育てた当事者ではなくて、第三者の目線なのかなと思いました。
我がことのように考え、無事を祈る辺り、作者のやさしさを感じました。
ただでもまあ流通しても売れ残って廃棄処分もありますからね。もしかしたら農家の方なのかも。そうすると「食われろ」は、作物そのものに対する愛情ですね。
「食われろ」の言葉選びと内在する心境を説明なしで伝える余地の与え方と、二種の立場を想像出来る面白さが素晴らしいと感じました。よってこれを、特選といたします。
以上です。
選んだ句も本当に素晴らしかったですが、選句から漏れた作品も良いものぞろいでした。とても楽しい句会でした。
ありがとうございました。
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