第87話


 幻の消えた美少女にいったい何があったのか?

 北村とチャラ崎はこんな軽いノリで興味を持ち、情報収集に協力してくれた。


 さっきも思ったがチャラ男のコミュ力とは本当に凄まじい。最側がどんな学園生活を送っていたのか、すぐにわかった。



「ほえ〜。つまり、最側ちゃんって子が七海ちゃんの彼氏を寝取ろうとして失敗した。それで、イメージダウンして迫害されたってことかぁ。昼ドラっすなぁ〜」


 北村が襟足を弄りながら話すと、チャラ崎はINカメラで自らの顔を確認しながら眉毛を書きながら話す。


「まぁ、風間はイケメンだからなぁ。でも、あいつが最側ちゃんじゃなくて七海ちゃんを選ぶってのも摩訶不思議だろ〜、こりゃ昼ドラからの刑事ドラマっすわぁ〜」



 こんなのは嘘っぱちだ。最側がそんな事をするなんて思えない。根拠はない。けど、バイト仲間だから……なんとなくわかる。わかるんだよ……。



「俺、風間って奴に直接聞いてくるよ」


「ちょっ、やのちゃん! さすがにやべーって。これ以上詮索すると悪い噂が立っちまうよ。彼女居るんだからさ」


 北村の言う通りだ。それでも、知りたいんだ。


 二人に止められながらも、風間に会いに行った。



 ◇◇


 風間はいわゆるイケテルメンズだった。

 栗毛色でどんぐりのような髪型に少し幼い顔立ち。それを払拭するかのような見事な泣きぼくろ。


 教室で煌びやかな重箱のお弁当をお行儀よく食べていた。

 金持ちオーラまでも纏っている。


 対面しただけで敗北を植え付けられるような。そんな男だった。


 最側が、こいつを……。まんざらでも無さそうで、胸が締めつけられる。


 そんな俺の心境を逆撫でするように、イケテルメンズな風間は口を開いた。



「あー、最側っすか。そういや、そんな名前のビッチも居たっけなぁ〜。すーぐ股開く悪い女っすよ」


 殆ど反射的だった。気付いたら俺は、風間の事を殴っていた。


「嘘吐くんじゃねぇよ! おいっ!!」


 もう止まれない。根拠も何もない。

 ただ、風間の言葉を受け入れたくない。それだけで行動していた。


「ちょっ、やのちゃん! やべーってまじやべーって!!」


「こ、これが二見さんが惚れた男。ノーモーションで殴りに掛かった! まじパねぇ!!」

「見惚れてんじゃねぇよチャラ崎! お前もやのちゃんを止めろ!」



 俺は風間の上に跨って殴り続けた。


「おい風間!! 本当のこと言えよ!!」

「お前、僕にこんな事してタダで済むと思っ──」

「うるせぇよ」


「ぐはっ。お、お前も最側と同じようにこの学園から消してやるからな」


 こいつ、今なんて言ったんだ?


「お前、今なんて?」

「か、覚悟しとけよ。お前も最側のように」



「まじうける! 風間の野郎自白しやがった! 殴られ過ぎて思考がパァになっちゃったか〜?」

「それな! まじそれな!」


 北村とチャラ崎が腹を抱えながら笑い出した。



 ほどなくして、風間は我に返ったのか「違うっ!」と、全否定した。


 言った言わないの泥沼。真実は闇の中へと葬られた。


 それでも、風間が嘘をついていた事がわかり内心ホッとしていた。それだけで十分だった。



 ──そして、俺には停学処分が下された。


 一方的に殴られたと風間が騒ぎ立てた為だ。



 風間をどうのこうのしたいとは思わない。もう、最側はこの学校には居ないのだから。今更何をしても現状は変わらない。



 確定していたはずの未来が変わった。

 変わるはずのない未来が無くなった。

 最側が、この学校から居なくなった。


 全ては俺のせい。風間はきっかけに過ぎない。



 タイムリープさえしなければ、最側は四天王になって、きっと楽しく学校に通っていたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る