第一章 愛らしき地獄の華

吉報、世界を巡る

 その日、世界は歓喜に震えた。

 たった一人の死によって。


 男は何者か。


 独裁者か? 違う。

 テロリストのリーダーか? 違う。

 侵略型異星人エイリアンか? 違う。


 ――――だが最も近い。



 ペンシルベニア州フィラデルフィアの沖合に浮かぶ駆逐艦内。

 厚さ20mの鋼鉄に覆われた移動研究所で、彼の遺体は発見された。

 死者・行方不明者17名、発狂者6名を出す凄惨な事件は、センセーショナルな見出しとともに世界を駆け巡った。


 生涯での殺害者数は40億人を優に超える。

 それは全て、革のソファに座ったまま行われた。

 

 TNT換算で100メガトンの個人・・携帯式爆弾。通称アンジャベルの福音。

 これを発明し、大国小国分け隔てなく売りさばいた最悪の武器商人が彼だ。


 最大威力はガンバレル型原子爆弾の7000倍。

 のべ200の国と地域を抉り飛ばし、その際の衝撃波は地球を3周した。


 強力無比なこの兵器、各国は平和のために・・・・・・独占したがったが、彼が首を縦に振ることはついぞなかった。

 ならば複製をと、諸国が誇る天才達に解析の依頼が回されたが、根幹は全くのブラックボックスで、その仕組みを理解できる者はおろか、なぜ爆発するのかすら、誰一人理解できなかった。

 結論は決まってこうだ。


「これは宇宙人が作ったに違いない」


 爆弾は彼の指定した日時と場所でしか起爆しない。

 顧客の狙いを聞き、彼が設定するのだ。


 彼の掌の上で、世界は滅びかけていた。


 そんな男が今日死んだ。


 人類史上最大の吉報であった。

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