第113話 恩金

 ビースト国の救援で今回はゴーレム騎士団を率いるのはティルダだ。

 マリリはビースト国に支店を作るつもりはないみたい。

 それでティルダが寄越された。

 何も用がないのだったら、ゴーレム騎士団を派遣しなくてもいいのにと思う。

 俺の部下がいないのでマリリはその代わりだと言っていた。


「みてみて、人があんなに小さく見える」

「ティルダ、落ち着こうよ」


 輸送機の中でティルダとモリーが会話していた。

 はしゃいでいるのがティルダでいさめているのがモリーだ。

 どっちが子供か分からない。

 会話に気を取られないで、前を向いてしっかり操縦しないと。


 ティルダのはしゃぎようを見ていると、ただ単にゴーレム騎士団の人間が旅行に行きたかったとも思えた。

 ビースト国は草原とサバンナの国だ。

 依頼にあった辺境都市に近づくにつれ、街から煙が上がっているのが見えた。


 スタンピート真っ最中じゃないか。


「みんな、ミサイルの簡易魔道具を撃ってくれ」

「みんな、抜かるんじゃないよ」


 輸送機の胴体に穴が開き、機内に風が吹き荒れる。


「撃てー」


 ミサイルの簡易魔道具がオレンジの軌跡を残し目標に向って行く。

 地上にはいくつもの爆発の花が咲いた。


「全弾撃ちつくして」


 俺はアイテム鞄からミサイルの簡易魔道具を取り出しモリーら弟子に手渡した。

 弟子の三人はゴーレム騎士団の者達にミサイルを供給。


 眼下ではオーガの大群がミサイルの炎に包まれ息絶えて行く。

 一軒家ほどあるサイの魔獣にミサイルの火力が集中。

 見事、討ち取った。


 ミサイルを撃ちつくしたので、輸送機を街から少し離れた所に下ろす。

 俺がゴーレム騎士団から預かっていたゴーレムを引き渡すと、騎士団のメンバーは出撃していった。


「いいか、安全な場所にいるんだぞ」

「うん」

「はい」

「はい、師匠」


 俺は水魔法を展開するとランデ男爵とそれに乗り戦場に赴いた。

 ゴーレム騎士団の邪魔にならないように魔力ゴーレムを先行させた。

 そして、魔獣の只中で爆発の魔法を起こした。


「恩金、ばんざい」


 魔獣と戦っていた獣人の一人がそう叫ぶと魔獣の群に切り掛かって行く。

 そのような光景があちこちで見られた。

 恩金って何だ。

 疑問はともかく魔獣の数を減らさないと。


 魔力ゴーレムが次々に爆発を起こして、魔獣を葬っていく。

 楽勝だな。

 魔法を撃って来る魔獣もいたが、土魔法の盾で問題なく対処できた。

 日が暮れる頃には魔獣の群は散っていった。


「報告」

「軽傷6、重傷1」

「治療はしたか」

「はい、ポーションと魔法で行い。現在、行動不能な者はおりません」


 ティルダにゴーレム騎士団の平騎士が報告した。


「忙しい時に悪い。恩金ってなんだ」


 俺はティルダに話し掛けた。


「ええとね。戦士が戦いで死んだり負傷したりすると、お金と名誉が貰えるのよ」

「親切なんだか。不親切なんだか」

「私は死ぬつもりで突っ込むのはあまり好きじゃないわ。勇気が必要な場面があるのは分かるけど」

「そうだな」




 弟子達三人を迎えに行き無事街に入る事ができた。


「俺は恩金の受給者だ」


 宿に行く途中足を引きずった獣人の男性が立ちふさがった。

 恩金の受給者なのは分かったが何が言いたいのだろう。


「邪魔なんだが」

「お前は恩金受給者を敬う気持ちがないのか」

「勇気を出して偉いとは思うよ」


 なんか手で仕草をしている。

 まじないではないな。

 要するに金を恵んでくれと言いたいのだろう。


「金を恵むつもりはない」

「物乞いじゃない。感謝の気持ちだ」

「故郷を守るのは当然だろう。大事な人が住んでいたらなおさらだな」

「もう、いい」


 男は怒って立ち去った。


「嫌ねえ」


 俺達を見ていた女性が言った。


「こういう場合は払えってのか」


 なんかカチンと来ておれは女性に言った。


「そうじゃないわ。恩金制度の事を嫌だと言ったの」

「突っかかるような事言ってすまない」


「彼はたぶん戦いが恐いのよ。きっと、酒びたりの毎日だと思うわ」

「勇気が無くなって、生きる勇気も失われたのか」

「彼みたいな人は沢山いるわ。可哀相な人達なのよ。無理やり勇気を振り絞った恩金の被害者」

「俺には何が良くて何が悪いのか分からない」

「そうね。私にもどうすればいいのか分からないわ」


「お前達も良く考えろよ」

「はい」

「はい」

「はい、師匠」


 三人も考えている。

 子供だから俺より答えはもっと出ないだろう。

 しかし、考えるのは悪い事じゃない。


 俺は恩金を無くすべきだと思った。

 各個人の信念で行動すべきだ。

 一時の金と名誉で行動すべきじゃないな。

 俺はそう思う。


 だが、実際は貧困や国民性など色々な要素が絡み合っているのだろうな。

 改革するつもりのない俺が口を出すのは止めておこう。

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