第108話 約束

「まずは、マリリさんの用事からだな」

「ランプシェードのお店に行きたいわ」


 店に入ると、ランプが色とりどりの光を放っていた。


「ランプも沢山あると綺麗だね」

「うーん、何かピンとこないのよね」

「どんな所が」

「簡易魔道具の照明にランプシェードを付けるのはいいのよ。でも当たり前すぎだと思う」

「声で点けたり消したりしたらどうかな」


 実はこのアイデアは今、ライタの知識を漁った。

 ライタのいる世界では普通の事らしい。


「凄い発想ね。作れるの」

「うーん、どうだろ。声に反応するのは出来るけど、言葉に反応するのが難しいな」

『だから言ったろ。コンピューターは必要だって』

「そう、無理なのね」


「いや、頑張れば出来ると思う」

「期待しないで待っているわ」


「よし、次はモリーだ」


 武器防具屋に入ると子連れのためかじろじろと見られた。


「この子のゴーレムが使う剣が欲しいから見つくろってくれ」

「どんなのが希望だ」

「そうだな、頑丈なのがいい」


「ええー、切れ味が鋭いのが良い」

「お小遣いで買えるのか」

「うっ、買えない」


「鋳造の安物のしとけ」

「くそう、こうなったらバンバン簡易魔道具を作ってお金持ちになってやる」

「そうだな、それまで辛抱だな」

「決まったかい」

「モリー、これにする」


 金貨一枚か。

 やっぱり武器って高いな。


「次はユフィアだな。隣がアクセサリー屋だ。マリリさんに選んでもらえ」

「はい」


「よし、この店でリリオの鎧を買おう。お金は俺が出してやる」

「はい、師匠」


「この子に合う鎧はあるか」

「うーん、背丈は大丈夫なんだが、横幅がな」

「もしかしてドワーフ用の鎧なのか」

「ああ、そうだ」


「リリオ駄目みたいだ」

「そんな」


 うな垂れるリリオが回復した時に全員が揃った。


「買う物はこれで全てだな」

「うん」

「お土産も買いましたわ」


「商材のアイデア出なかった」

「マリリさんも、しょげないで。発明は発明家にさせておけばいいんだよ。マリリさんはどうやって売るか考えなきゃ」

「そうなのかな」

「マリリさんはよくやっている自信を持っていいよ」


「子供用の鎧がないなんて」

「リリオ、しょげるなよ。帰ったら特注で作ってもらうから」

「約束だよ」

「おう、男と男の約束だ。そうだ、約束と言えばあそこに行かないと。みんな悪い俺は用事がある」


 俺は皆と別れて爺さんの工房を訪ねた。


「爺さん、約束を果たしに来たぜ」

「嘘を言ったらいかん」

「職人は剣で語るものじゃないのか」

「ふん、見せてみい」


 俺から剣を受け取った爺さんはしばらく刀身を眺めた後に剣を鞘に戻した。


「おぬし無茶苦茶だな。固い物を人外の力で強引に叩き切っただろう」

「よく分かるな」

「スキルでもこの頑丈な剣はここまでボロボロにはならん」

「ゴーレムに使わせて。ロックワームを切らせた」

「それは反則というものじゃ」

「俺は分かったぜ。使われない剣は可哀相だとな。俺は今後ゴーレムに剣を持たすが、自身では使わない」

「ふん、及第点じゃな。良かろう剣は返してやる」

「売ってくれるのなら、爺さんの剣を売ってくれ。ゴーレムに使わせたい」

「調子に乗りおって」


「どうなんだ」

「頑丈さがとりえの剣、十本を売ってやろう。じゃが、力任せに剣を振るうなどは三流以下じゃぞ」

「分かっているよ。ゴーレムの剣はそういう剣だ」

「まあ、戦い方は人それぞれじゃ。下手くそには下手くそに合った剣がある。職人はその人に合った剣を作り出すだけじゃ」

「一流の使い手じゃなくても良いのか」


「切れ味を求めるのは若いうちに散々やった。人に合った剣を作る。それが今のわしのモットーだ」

「なら貰っていくよ。なんか爺さん望みはあるか」

「そうさな、満天の星を見たい。この都市からでるのは億劫おっくうになってしまってな」


 それなら、良いのがある。

 ランプの店に行った時に漁ったライタの知識の中に、星を映す照明があったはずだ。


「工房のすみを借りるよ」


 俺は照明と念動を組み合わせて、プラネタリウムの簡易魔道具を作った。


「何を作ったんじゃ」

「暗くしてこれを使うと」


「ほう、星が見えるな」


 爺さんが泣いている。

 何か星に思い出があるのだろう。


「気にいってくれたなら嬉しいよ。じゃまたな」


 宿に帰りマリリさんを前に新商品の説明をする。


「とこんな物だけど」

「ドリルも空気タンクもマスクも売れると思う。一つ聞きたいのは星を再現した装置を誰の為に作ったの」

「誰って武器職人の爺さんだけど」

「そう、それなら良いのよ」

『そこはマリリさんを思って作りましただろ』


 はい、はい。


「マリリさんも欲しい物があったら言ってよ。作れる物なら作るから」


 ノックの音が聞こえる。


「はい、どうぞ」


 入ってきたのはランデ男爵だった。


「サンダー準男爵。お疲れ様です。ドワーフ国の宮廷への報告も終わりました」

「じゃあ、帰れるんだな」

「それが本国から商都市連合国に飛んでほしいと、通達がありまして」

「行ってやるさ。拒否できないしな」

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