第99話 女王討伐

 奥の部屋を覗くとハイワーカーアントがうじゃうじゃと居てその奥に6メートラ程のミリタリーアントがいる。

 あれが女王か。

 その奥の壁には特大の幼虫が二百ぐらい居た。

 女王の幼虫なのだろうな。

 ヴァレオさんが見た光景に違いない。

 ヴァレオさんが見た時からかなり時間が経っている。

 卵も幼虫になるだろう。


 ハイワーカーアントは隊列を組んでこちらに攻めて来る構えを見せた。

 この場にいるのだから死魔法は役に立たないのは分かっている。

 風魔法をライタに指示。

 風魔法は体表でかき消えた。

 魔法防御も持っているか。

 物理はどうだ。

 銃魔法を撃つ。

 弾丸は食い込んだようだが、歩みは止まらない。

 ダメージにはなっているみたいだけど、致命傷には程遠いか。


「いったん退こう」

「そんな、ここまで来て」

「辞めるとは言ってない。方策を得る為に一時撤退するだけだ」


 リンナは渋々と頷く。

 ジェネラルアントの部屋に戻るとハイワーカーアントは追いかけては来なかった。

 なるほど女王が司令塔になっているのだな。

 自分の身が優先って事だろう。


 この部屋で各個撃破とは行かないみたいだ。

 ここから加速砲を撃ち込めれば良いんだけど、通路は例によって曲がりくねっている。

 煙で燻すのも難しい。

 なぜなら女王の部屋が最下層でこの部屋より下に位置するからだ。

 秘密兵器ならある。

 だが網ゴーレムと一緒で実戦では一度も使った事が無い。

 それにこれはワーカーアント用に考案したものだ。

 ソルジャーアントにさえ通用するか怪しい。


 これで駄目なら報告して出直しだな。


 覚悟を決めて女王の部屋に入る。

 秘密兵器、接着剤ゴーレムの出番だ。


 桶を次々に出してゴーレムを作る。

 濡れた足跡を残して接着剤ゴーレムが出撃する。

 これで終わりじゃない。

 土でできたクレイゴーレムだ。

 基本にして最弱の呼び声高いクレイゴーレム。

 クレイゴーレムをなぜ出したかと言うと。


 接着剤ゴーレムがハイワーカーアントに触る。

 接着剤ゴーレムはその身を削ってハイワーカーアントに自身を塗った。

 そのハイワーカーアント同士をクレイゴーレムがくっ付けるのだ。

 クレイゴーレムの利点はパワーはそこそこで体表が脆い。

 この体表の脆さが良い。

 接着剤に触れても体の表面が剥げるだけで問題ないからだ。

 次々に接着されて一塊になっていくハイワーカーアント。

 しばらくすると身動きできるハイワーカーアントは一匹も居なくなった。


 女王はこれから攻撃されるというのに身動き一つしない。

 動けないタイプの女王でよかった。

 ミスリルの杭を魔力結晶ゴーレムに渡して止めを刺させた。


 あっけなく終わったな。

 いや、まだ女王の幼虫が残っている。

 リンナの目が喜悦に輝いていた。


「好きにして良いぞ」


 リンナは喜々として幼虫をレイピアで突き刺し始めた。


「ヴァレ兄の仇。思い知れ」


 幼虫の体液まみれになってもレイピアを執拗に突き刺している。

 そして最後の一つになった。


「どうだ気が晴れたか。最後の一つが残っているぞ」

「ミリタリーアントを絶滅させてもヴァレ兄は帰ってこない。私は薬師だ生態系は壊せない。この幼虫は残す」

「そうか、好きにしたら良い」


 魔獣も人の役に立ってないかというとそんな事は無い。

 ミリタリーアントは葉っぱを腐らせて地中に撒くことで森の栄養になっている。

 また他の魔獣を間引く役割もしている。

 多すぎれば毒、少なければ薬。

 正にその通りだ。

 この巣はマップが作られ定期的に駆除する事で魔石を生み出し続ける鉱山になるのだろう。


「ありがとう。ここまで来れたのも、フィルのおかげだわ。もし良かったら、王都で工房を一緒にやらない?」

「俺は冒険者だ。それ以外にはなれそうにない。それに弟子は独立するもんだろう。アドラムでやっとけよ」

「いいわよ。もう知らない。せっかく……勇気を出して……」


 最後は聞き取れなかったが、言葉とは裏腹にリンナの機嫌はそんなに悪く無い。


 証拠として女王の幼虫をアイテム鞄にいれてから、俺達は来た道を帰り始めた。

 出会う兵士にはデッドラインの危険を簡単に説明する。

 女王が討伐されたと付け加えると喝采された。

 ベースキャンプに着いたので、幼虫を出して報告をする。


「ご苦労だった。ヴァレオはほら吹きでは無かったのだな。惜しい男をこの国は亡くした」

「この事実だけは隠蔽されない様にしてくれ。もし、そんな事になれば俺はこの国を見限るだろう」

「承知した。一命に代えても」


 もし、名誉が回復されないなら。

 次に女王の卵が沢山産まれる事になっても俺は傍観を決め込むかもしれない。

 そんな事態にならないのを祈るだけだ。


 俺は宿に戻って泥のように眠る。

 そして、次の日、外交官のアレグレッドとリンナと一緒に面会した。


「ふん、生き残ったか。用が済んだのならこの国からとっとと出て行きたまえ」

「ちょっと、同じエルフとしてその言い草は許せない」


 リンナが噛み付いた。


「では何かね。この国を外国に頼らないと存続できない弱い国にしてもいいのか」

「感謝の言葉ぐらい言いなさいよ」

「今回の事を収めた力が戦争に使われる可能性もあるのじゃないかね」

「フィルはそんな事しない」

「良いんだ。ヴァレオさんの名誉も回復できたし、結果として大勢の人を救えたから。あんたに言いたい。覚えておいて欲しい。一人より二人、二人より三人そうやって人間は発展してきた。だから、国も同じじゃないのか。依存するのは良くないが、仲良くできるところは手を取り合って行くのも良いんじゃないかな」

「ふん、知ったような事を」


 俺達はその場後にして帰り支度を始めた。

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