第96話 救出を手伝う

 人々と魔獣が壁の穴に押し込まれている。

 ライタがまるでカプセルホテルだなと感想を洩らした。


「待って、試したい事があるの」


 俺がゴーレムで人々を運ぼうとしたらリンナに止められた。

 何をするか見ていたらソルジャーアントから採取した内臓に抽出スキルを掛けていた。

 リンナはもう抽出スキルを物にしたのかこの旅の始めに簡易魔道具を渡したばかりなのにな。


「何の薬?」

「蟻毒の解毒剤よ。先日まで研究していたの。蟻蜜酒の中毒を緩和させるわ」

「この仮死状態も蟻毒のせいなのか」

「正確にはミリタリーアントが栽培しているキノコの毒ね」

「なるほど。ミリタリーアントには毒を中和する成分が含まれているのか」

「そういう生物もいるわ。でないとキノコを主食にしないでしょ」


 リンナが長いスポイトを使って薬を救出した人の口の奥に流し込む。


「ごほっ、こぼっ。はっ、俺は何を」

「大丈夫か」

「もの凄く頭が痛い。それと体の節々がまるで金棒だ。二日酔いの酷いのをくらったみたいだ」

「記憶はどうだ」

「森でワーカーアント狩りをやっていて。そうだ、もの凄い数のソルジャーの奴が。仲間は」

「どんな特徴だ。探してやるよ」

「黒い金属鎧を着けた赤髪の大男と青い皮鎧を着けたひょろひょろの金髪の男だ」


 ろれつの回っていない声で喋る冒険者風の男。


 俺はその特徴の男を探す。

 良かった少し傷を負っていたが、生きている。

 俺はゴーレムを使いその二人を助けた男のすぐ側に運んだ。


「間違いないか」

「ああ、良かった」


 立ち上がろうともがく男。

 でも、立ち上がれないみたいだ。


「とりあえず寝てて良いぞ」

「すまないな」


 男をゴーレムで担ぐ。


「意識を取り戻すのは地上でやった方がいいな」

「ええ、そうする。とりあえず薬の効果は確かめられたから。薬も沢山作れないし」


 捕らえられていた人は冒険者が多い。

 稀にチンピラがいる。

 たぶん蟻蜜を取ろうとして捕まったか。

 この間の襲撃で捕まったのだろう。


 ミリタリーアントの食事は主食がキノコで副食が肉。

 そうだよな、キノコって栄養が余り無いイメージあるもんな。

 これは大救出劇になるかも。

 まだ同じような部屋は沢山あるだろうから。


 ゴーレムが人々を担いで部屋を出る。

 よし、ソルジャーアントは居ないみたいだ。


 銃魔法と死魔法があればゴーレムが戦闘、出来なくても問題ないだろう。


 途中。ソルジャーアントらしき魔力が近づいて来る。

 先導の兵士に停まるように指示をした。


 やっぱり、ソルジャーアントだった。

 銃魔法を撃つが、壁が曲がりくねっていて中々当たらない。

 死魔法を放つ。

 魔力ゴーレムの軌道は自由に動かせる為、通路に関係なく仕留められた。

 魔力ゴーレムは壁を通過できるけど視認しないと操縦はむずかしい。

 地形ってのも厄介だなと改めて思う。


 シューターアントも出てきたが攻略法は出来ている。

 問題なく地上に戻ってこれた。

 地上にはテントで出来た領軍のベースキャンプが出来ている。

 その一角に治療所があった。

 俺達は捕らえられた人々をそこに収容した。

 その時にチンピラのポーチから薬品が転がり落ちる。

 リンナが素早く拾い蓋を取って臭いを嗅いだ。


「これ、ミリタリーアントの発する臭いを凝縮した物だと思う。攻略に役立つんじゃないかな」

「これを使ってもチンピラは襲われた。何か欠陥がありそうだ。だけど試してみよう」


 俺とリンナは薬を体にふりかけて巣穴に戻った。

 ソルジャーアントを探すと案の定、襲い掛かって来た。

 さっくり仕留めて考える。


「駄目だな」

「薬は期限があるものよ。きっと劣化だわ」


 俺が落胆した言葉を洩らすとそうリンナが言った。


『ちっ、ちっ、ちっ。そうじゃない。きっと昔の人は分かっていたのさ』


 ライタが意見を伝え始めた。


『ミリタリーってことは軍隊だ。軍隊では暗号は一定周期で変わるものさ』

「リンナ。薬が変化したんじゃなくて。ミリタリーアントが変化したんだ」

「なるほどね。薬を作り直せば良いって事ね」

「どう出来そう」

「問題があるの。ミリタリーアントは臭いで会話するのよ。仲間かどうか識別する臭いを蓄えてる訳じゃないわ」

「臭いの元が複数あって調合して臭いを発しているって訳か」

「そうね」


 待てよ。

 アルヴァルの野郎はどうやってその臭いを突き止めたんだ。

 そうか。

 共生生物だ。

 やつらは臭いを調合していない可能性がある。

 卵のうちに学習して一種類しか臭いを出せないって事も考えられる。


「よし、幼虫モドキを探そう。それから臭いを抽出するんだ」

「分かったわ」


 俺達は幼虫がいる部屋を探した。

 幼虫部屋は攻略済みで全ての幼虫が殺されていたが、何とかなるだろう。

 モドキは顎の形が少し違う。

 間違い探しのような事をして、モドキの屍骸を手に入れた。

 リンナが抽出スキルを掛けて薬を作る。

 俺の鼻には前の薬とどう違うのか分からないが、とにかく出来上がった。

 洗浄スキルを掛けてから薬を体に振り掛ける。

 さて今度は上手く行くかな。


 ドキドキしながらソルジャーアントを探す。

 居た。

 ソルジャーアントは俺達に顔を向けると方向転換して来た道を帰っていった。

 成功だ。


 領軍のベースキャンプに急いで戻る。

 蟻毒の解毒剤のレシピと襲われなくなる薬のレシピを使用方法と共に提出した。

 これで領軍の被害者も減るし、救出も進むだろう。

 俺達はそろそろ最深部を目指そうと思う。

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