第90話 テロ

 ミリタリーアントの手掛かりを求めて迷彩スキルを使い警備兵の動きを探った。


「逃げられたな」

「そうだな。だが、不気味じゃないか。ほんのさっきまで生活していた形跡があるのに誰も居ないなんてな」

「やつらも相当、慌ててたって事だな」

「血の跡があった現場もあったそうじゃないか」

「逃げるのが嫌で内輪揉めってところだろう」


 警備兵は奴らが逃げたと思っているみたいだ。

 ミリタリーアントが襲撃したという俺の見立ては間違っていたのだろうか。

 警備兵が建物に近づかせない様に野次馬に向かって警告している。

 その野次馬の中にフードを被ったローブの男を見つけた。

 魔力視で見るとアルヴァルの色だ。

 こんな所で会えるとはな。

 迷彩スキルを使い後をつける。


 人気のない路地にアルヴァルが入っていく。


「おい、姿を現せ。姿は隠せても魔力は隠せない。お前フィルだろう」


 ばれたか。

 魔力計という道具があるんだったな。

 俺が姿を現すとアルヴァルはフードをずらした。


「そういうお前はアルヴァルだろう。身元は判明している」

「それがどうした」

「ゴールドスパークだったけな。あれはお前の仕業だろう」

「そうだ。蟻蜜の利用法としては失敗作だがな」

「何を企んでる」

「馬鹿な事を言うな。この国での企みはお前が潰したのだろう」


 アルヴァルはチンピラ達が消えたのは俺がやったと思っているのか。


「さてどうかな。ところでミリタリーアントの巣穴への道はどうやって見つけた」

「研究の成果と言いたいが、忌々しい事に手下が偶然、掘り当てた」


 聞きたい事は全て聞いた。

 捕まえるとしよう。

 魔力ゴーレムを捕縛に向かわせる。


「導火線」


 そう来ると思った。

 俺は封印スキルを展開した。

 封印スキルに魔力の塊は触れ四散した。

 封印スキルは無敵に思えるが展開しているとこちらも魔力を使って攻撃できない。

 ゴーレムも封印されてしまうから後は腕力だけだな。


「そうか、封じてきたか。ならこれはどうだ」


 拳を振り上げて襲い掛かる俺に対して薬品をばら撒いた。

 毒を使ったか。

 俺は封印スキルを解除すると対毒の風魔法を展開。

 それに対して導火線を飛ばしてきた。

 ちくしょう逃げられるものか。

 俺が飛び退くと風魔法が爆発。

 急いで追いかけるとアルヴァルは薬品を撒きながら撤退していった。

 馬鹿だな。

 毒は効かないぞ。

 必死に追いかける。

 その時、地面が持ち上がりソルジャーアントが姿を現した。


 何っ、あれはミリタリーアントをおびき寄せる薬品だったのか。

 ミリタリーアントの道の一本がこの下を通っているのだろう。

 でもこれで本道への手掛かりがつかめた。

 アルヴァルは惜しい事をしたが、このソルジャーアントを倒して巣穴に突入しよう。


 俺はゴーレムをアイテム鞄から出して冷却手榴弾を投げつけた。

 ソルジャーアントの動きが鈍ってゴーレムの剣で首と胴体を切り離す事ができた。

 ソルジャーアントが出てきた穴を確認する。

 穴は1メートラほど行くと行き止まりだった。

 くそう、上手く行かないな。

 よく見ると出てきた穴の側に空気穴がある。

 ここから薬品の臭いを察知したんだな。

 ミリタリーアントの研究ではアルヴァルに何歩も遅れをとっているのを感じた。


 角を曲がると地面のあちこちが掘り返されてソルジャーアントが大量に道に溢れている。

 アルヴァルの野郎、逃げる為とはいえやりすぎだ。

 ゴーレムをありったけ出して応戦しながらマリリの店に急ぐ。

 おっとり刀で領軍が出動してきた。

 色々な場所で戦闘が開始されていた。


 ソルジャーアントは領軍に任す事にしよう。

 アルヴァル一人がやったにしては大規模すぎる。

 ジャッガム帝国だっけ。

 そこの工作員総出でこれを起こしたのかな。


 首都でテロを起こす。

 これがアルヴァルの目的だったのだろう。

 ジェネラルアントが出てくるような気がすると思ったら、大通りで重歩兵の一団と戦闘を繰り広げていた。

 さすがの重歩兵もジェネラルアントの攻撃力には太刀打ち出来ない。

 次々に噛み砕かれて行く。


「助太刀する」

「おう。助かった」


 隊長らしき人に声を掛けると野太い声で返事があった。

 桶を次々に出してスライムゴーレムを三十ほど作って水魔法で冷やす。

 そして、スライムゴーレムをジェネラルアントに纏わりつかせる。

 噛み千切れないスライムゴーレムにジェネラルアントはイラつく。


「筋力強化。強打」


 スキル発動の掛け声と共に隊長の大剣の一撃がジェネラルアントの頭に打ち込まれる。

 いくらかダメージにはなったようだ。

 スライムゴーレムの冷気もかなり浸透してジェネラルアントの動きは鈍くなっている。

 加速砲で止めを刺すと領軍の面目丸つぶれだな。


「首を狙ってくれ」

「よし、お前ら援護しろ」


 隊員が盾を持ってスクラムを組む。

 噛み付きに来たジェネラルアントを盾で阻む。

 側面に回った隊長は大剣を振りかぶった。


「斬撃強化。振動。筋力強化。強打」


 俺はスライムゴーレムを一層まとわりつかせ。

 そしてその他のゴーレムは関節を狙わせた。

 大剣は首に少し傷を与えて止った。

 スライムゴーレムを大剣に乗せ重しにする。

 一体じゃ駄目か。

 剣を持つ隊長のこめかみに血管が浮き出る。

 三体ならどうだ。

 ミシミシと大剣が音を立て少しずつ大剣は進んで行ってついには首を切断した。


「うおー」


 隊長の雄叫びが建物にこだました。

 俺はマリリの店に急いだ。

 マリリの店の前にはソルジャーアントの屍骸が五つ積み上げられていた。


「あっ、フィルさん。将軍なら店の中ですよ」


 ゴーレム騎士団の一人がそう言った。

 店には被害が無かったようだ。


「良かった無事だったのね」


 店先でリンナが俺を見て言った。


「これぐらい平気だよ」

「やっぱり、ミリタリーアントは危険なのよ。ヴァレ兄は正しかった」

「今回はテロだったと思う。いや良く考えてみれば前回も。ミリタリーアント襲撃の全てが仕組まれた物だったのかも」

「えっ」

「アルヴァルの策略に思えてならない。蟻蜜ってのはミリタリーアントの特別な餌だよな。それを奪われたらどうだ」

「取り返しに来る」

「そうだ。今までの襲撃は全てそれなんじゃないかと思っている」

「全てが報復」

「でも女王の卵が沢山あるのも間違いないだろう。魔獣の大繁殖があるのは事実だ」

「つまりどのみちこうなっていたのね」

「遅かれ早かれそうだろうな。アルヴァルの野郎がそれを早めたって事だな」


 蟻蜜の大半は麻薬になって出荷された。

 アルヴァルはもうこの国を出たのかも。

 俺にはそう思える。

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