第72話 荒野の石碑

 アドラムに久しぶりに帰ったので初心を思い出す為に冒険者の仕事をする事にした。

 本当に久しぶりだ。

 荒野の乾いた風に懐かしさを感じる。

 これからはたまに帰るとしよう。

 空を飛べば十日ぐらいで王都と行き来できるはずだ。


 出てきたオーガなどの魔獣を蹴散らし、荒野の奥にどんどん進む。

 迷いそうだが今回の為に方位磁針を作っておいた。

 作り方はこうだ。

 鉄の芯に銀の針金に被覆したのをグルグルと巻いて電磁磁石の完成だ。

 電撃で電気を通すと鉄の芯が磁力を帯びる。

 鉄の芯に針を近づけると針も磁力を帯びる。

 後は針をやじろべえにすれば方位磁針だ。


 磁力を保持する力が弱いので幾日かすると使えなくなる。

 しかし、一日使うぐらいなら問題ない。

 それと、北と南が逆になっているかもしれないが、一定方向を指すのが分かればいい。


 十分置きに出てきた魔獣がぱたりと出てこなくなった。

 遠くにキラリと光る物が見えた。

 なんだろう、近寄ってみるか。


 近づくにつれその物の正体が分かってきた。

 黒いつるつるした六角柱の石碑だ。

 何やら分からない文字が刻んである。

 触ると少し暖かい。

 まるで生きているようだ。

 俺が声を上げると。


『俺……に触るのは……誰だ』


 驚いた事に石碑からつっかえながら返事があった。


「冒険者をやっているフィルだよ」

『そうか、あんまりにも久しぶりなんで喋り方を忘れるところだった』


「超越者かな」

『そうだ規則に違反して封印されたんだ』

「ふーん、何をやったか知らないけど悪い事をしたのか」

『どうしても死なせたくない奴がいて時間を遡ろうとして捕まった』

「超越者ってそんな事もできるの」

『いや出来ない。だがブラックホールを作る程のエネルギーを込めればなんとかなると思った』

「今は無理だと分かったのか」

『ああ、封印されていて考えたが理論の矛盾が解けてない』

「後どれぐらいで開放されるの」

『俺が時間遡行を諦めるまでだ』

「凄い気の長い話だな」

『超越者は同胞を殺さない。なぜならそれは自傷行為に他ならないからだ』

「そうか、根っこは一つだから」

『ずっと昔に一度それをやって全超越者がのた打ち回った』

「痛みも共有されるのか。エネルギー生命体の痛みなんて想像できないけど」

『とにかく俺はしばらくはずっとこのままだ』




「それで声を掛けたのは何か考えがあるのか」

『暇なんだ』

「話し相手になって欲しいって事」

『いや、映像を見れる物を付けて欲しい』

「カメラみたいな物を持って行動して欲しいのか」

『そうだ。頼めるか。ただとは言わない』

「報酬は……そうだ擬似物質の作り方が聞きたい」


『そんな事でいいのか。擬似物質とはホログラフィと力場とエネルギーを併用したものだ』

「つまり幻に触感を持たせたってわけか」

『魔法スキルも同じ原理だ。魔法スキルが魔力を沢山使うのは現象をシュミレートしようとして処理能力が必要だからだ』

「なるほどね。ライタ、聞いてる? 創造魔法じゃなかったみたい」

『なんだ、物理現象かよ。つまらん』

「すねなくても」

『もう良いか。カメラを取り付けたい』

「良いよやって」


 魔力の塊が石碑から飛び出し、俺の身体に吸い込まれた。


『スイッチを入れると意識すれば作動する』


 カメラのスイッチを入れると意識すると体の中の魔力がスキルが動くのと同様に動く。


「じゃあ行くよ」

『さらばだ。面白い映像を期待している』


 なるほど魔法は物理現象なのか。

 治癒は時間を早めているのではなくて、本人の血肉を再構成しているだけか。

 なんとなく分かった。

 真偽鑑定は心臓の鼓動や脳内の電気パルスなんかを判断しているのだろうな。

 ライタの知識があるから色々な事が理解できる。

 感謝しないとな。




 俺は石碑から離れ街に戻る事にした。

 途中オーガに出会ったので、サービス精神でちまちまと倒す事にした。


 魔力結晶ゴーレム達にオーガを囲ませる。

 オーガは手始めに一番近いゴーレムを潰そうと足を振り上げた。

 だが、スキルを重ね掛けしたゴーレムはもの凄いスピードでバックステップ。

 オーガの攻撃は空ぶった。

 そこにゴーレム達のミスリルの剣が叩きこまれる。


 すねを切られオーガは痛そうだ。

 一体しかいないミスリルゴーレムが風魔法を放つ。

 オーガは足にダメージを負ったので手で風魔法をガードした。

 手の平に一筋の切れ目が入る。

 血も出ない。

 オーガって硬いんだな。

 手をざっくりとは行かないみたいだ。

 手の平と足の裏がとにかく硬いのかな。


 対空ミサイルを一発撃つ事にした。

 対空ミサイルは赤い軌跡を引いてオーガに向かって行く。

 オーガは余裕を持って避けたが、ミサイルは追尾する。

 手で叩き落とそうとして爆発。

 至近距離で喰らったので胴体にもダメージが入る。

 そして、動きが鈍くなった。


 ゴーレムが斬撃強化のスキルを使いオーガに攻撃する。

 足をざっくりと切られ移動がままならなくなった。


 そして、足を集中攻撃され立って居られなくなり倒れる。

 止めに首を切り裂かれオーガは息絶えた。

 なんか残酷だな。

 次からは死魔法で倒そう。

 同じ映像を何回も見せられても退屈だろうし。




 それからは死魔法で魔獣を倒しつつ進み無事街に帰還した。

 露店なんかの映像も面白いかなと思い露店を冷やかす。


「なんだ兄さん買わないのかい」

「作っているところが見たいんだ」

「変わってるね。同業者かい」

「違うけど。じゃあ作っている間に食べるから一本くれ」


 俺は串焼きを一本買ってかじりながら作っているところを観察する。

 肉の刺さった串を両面火にあぶりソースを塗る。

 ソースが無くなると調合し始めた。


「味覚強化」


 露店の男はスキルを発動した。

 へぇ、味覚を強化するスキルもあるんだ。

 所詮舌で味を感じるのは神経細胞の働きだから、魔力が神経細胞の電気信号を増幅しているのだろう。

 分かってみると興味深いな


 そういえばダンジョンの転移はどうやっているのだろう。

 二つの空間を繋げているかも知れないな。

 人間の頭では計算できないのだろうな。

 エネルギー生命体である超越者ならではの知識か。


 俺は街の見物を一通り終え、そろそろ王都にもどろうかなと考えた。

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