第63話 手押しポンプと三本勝負

 魔力に直接命令して何ができるか考えてみた。

 魔法はライタによれば制御が複雑で直接命令するのは難しいらしい。

 簡単な命令なら魔力が理解できるそうだ。

 封印対策の精神感応エネルギーを奪われるなというのは理解させる事ができた。

 それと言う事を聞くのは自分の色に染まった魔力だけだ。

 自然界の魔力は反応してくれない。


 魔力ゴーレムを作ってから言う事を聞かせれば良いだけだけど。

 これじゃ今までとあんまり変わらない。


 超越者の知識とリンクさせて魔力を動かす方法は決まった事しか出来ないそうだ。

 治療の知識がなぜか沢山と鑑定の知識がこれまた沢山。

 攻撃に関する知識は無い。

 生産に関する知識も無い。


 要するに超越者に必要な事がデータベースに入っていると見た。

 太陽レベルのエネルギーを持っている奴は攻撃なんて必要ないだろうな。

 治療と鑑定は動物を改良するのに必要だったと思われる。

 生産が無いのは隠されているとみた。

 魔道具やダンジョンの魔獣の作成方法はぜひ知りたかった。


 検証の過程で幾つかのスキルを得た。

 封印、治癒魔法、スキル鑑定、物品鑑定、魔力鑑定、真偽鑑定だ。


 久しぶりにステータスを見る事にした。


「ステータス・オープン」


――――――――――――――――

名前:フィル・サンダー

魔力:54/54


生活スキル:

 洗浄

 生水

 種火

 冷却

 照明

 送風

 乾燥

生産スキル:

 変形

 抽出

 混合

 回路魔法

 魔力変質

特殊スキル:

 ゴーレム使役

 契約魔法

 迷彩

 吸着

 吸光

 封印

武術スキル:

 筋力強化

 魔力放出

 念動

 魔法防御

 鉄皮

 魔力操作

 反発

 貫通

 斬撃強化

 俊足

 強打

 集音

 誘導

魔法スキル:

 火魔法

 水魔法

 風魔法

 土魔法

 雷魔法

 治癒魔法

鑑定スキル:

 罪状鑑定

 スキル鑑定

 物品鑑定

 魔力鑑定

 真偽鑑定

レアスキル:

 魔力視

 魔力走査

 並列システム

――――――――――――――――


 45もスキルがある。

 スキルの数が一つしかなくて捨てられたのに、増えれば増えるものだ。




 中々魔力の利用法が分からないので気晴らしに簡易魔道具のアイデアを考えてみた。

 木を切る物を作ってないのに気づく。


 のこぎりに斬撃強化をかけたのと水魔法で切る二つのタイプを作った。

 切れ味は水魔法、魔力消費は斬撃強化に軍配が上がる。

 一応両方ともマリリの所に持って行く事にした。


 それとドライヤーと送風機も作った。

 さぁ、マリリの所に持って行ってみよう。




「こんにちは」


 マリリの部屋にノックして入る。


「いらっしゃい」


 マリリは難しい顔で机の上に乗っている機械を見ていた。


「それどうしたの」

「食い詰めた発明家の所から持ってきたのよ」

「へぇー」

『おい、それ手押しポンプじゃ』


 ライタの知識を探り手押しポンプの情報を得る。


「マリリさん、それは水を汲む道具じゃないのか」

「よく分かったわね。それでね、良い名前が思いつかないのよ」

「ポンプってのはどうかな」

「意味は分からないけど何となくしっくりくる名前ね」

「それ売り出すの」

「ええ」


 水を汲む簡易魔道具を作った事があるのは黙っていた方がいいだろう。

 もう二度と水を汲む簡易魔道具は作らないと心に誓った。

 なんとなく後ろめたいのでアイデアを一つ無料で提供する事にした。


「実はそれを小型化した奴があるんだ」


 俺は手動の灯油ポンプの設計図を書いて渡した。


「ライタはなんでこんな事を知っているんだ」


 俺は小声で言った。


『子供の頃に分解した事があるんだ。好奇心旺盛で悪かったな』

「悪くないよ。ライタの知識には助けられている」


「この小型ポンプの材質が問題ね。柔らかくて脆くない物。魔獣素材かしら」

「魔木の中に弾力がある樹液を出すのがある」

「物知りね。ところで、小型ポンプはどこで知ったの」

「ある職人から教えてもらった」

「じゃあその人にもお金を払わないと」

「いや良いんだ。そいつは金持ちだから」

「せっかくだから発明家の支援に使わせてもらいます」


 マリリに木を切る道具とドライヤーと送風機を渡して部屋を出た。




 帰ろうとした時に宿屋の裏庭から元気な掛け声が聞こえる。


 覗くとゴーレム騎士団の団員が何人か訓練をしていた。

 馬ゴーレムに戦闘ゴーレムを乗せて剣を打ち合っている。

 ゴーレムに痛覚はないから剣術の訓練にはもって来いなのだろうな。

 的にクロスボウを撃っている団員の姿もある。


 なるほど近接攻撃はゴーレムに任せゴーレム使いはクロスボウで支援か。

 理に適っているな。


「フィルも訓練に参加したいの」


 ティルダが俺を見つけ話し掛けてきた。


「ゴーレムにやらせるのなら」

「じゃあ勝った方が昼飯をおごるってのでどう」

「そっちはスキル無しの条件で三本勝負な」




 俺はトレントゴーレムをだしてライタに任せるのではなく自分で操った。

 木剣をそれぞれ構え、勝負を始めた。


 俺のゴーレムは突きを繰り出す。

 ティルダは慌てる事無く剣先を受け流し、ゴーレムの腕を木剣で叩いた。


 一本目はティルダに簡単に負けてしまった。


 二本目が始まりゴーレムは剣を大振りになぎ払う。

 当然ティルダは避け、隙が出来た所に撃ち込んできた。

 ゴーレムはバランスを崩したまま、間接を逆に折り鋭く突きを放つ。

 人間は間接があるから無理な動きでもゴーレムにはなんともない。

 ただ操る人間のイメージがしづらいので、熟練のゴーレム使いにしか出来ない技だ。


 ティルダの油断もあり、突きは鎧に当たった。


 さて三本目はどうしよう。


 そこで、フットワークでかく乱する戦法を取った。

 ゴーレムはいくら飛び跳ねても疲れない。

 左右に飛び跳ね隙を狙う。

 ティルダは木剣を構えたまま微動だにしない。


 ゴーレムがフェイントの斬撃を繰り出すと、突然ティルダは木剣でゴーレムの足を払った。

 ゴーレムの足はもつれ無様に転がる。

 剣をゴーレムの頭に突きつけられ負けてしまった。




「いやー負けたな」

「なんでもありなら、どうなるか」

「一応Sランクだからな。当然、切り札のいくつかはある。よし、騎士団の全員に飯をおごるぞ!」


 辺りは歓声に包まれた。

 ティルダだけに飯をおごってまた変な噂が立つとな。

 ここは全員におごる手だろう。

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