第59話 マリリとゴーレム勝負ふたたび
冒険者ギルドに顔を出すと俺宛の伝言が届いていた。
日付は三日前で王都に着いたマリリとある。
タイミング悪いな。
スタンピード騒ぎの最中に着いたのか。
急いで宿屋に行くとロビーにマリリの姿があった。
「遅くなりました」
「遅いよ滞在費だって馬鹿にならないんだから」
「依頼で出ていたんだ」
「それなら許す」
その後、マリリの部屋に行きアイテム鞄から商品を出してマリリのアイテム鞄に入れた。
「ねえ、私にも魔力放出を教えて」
作業が終わり部屋を出ようとした時にマリリが決意した表情で口を開いた。
「どうしたんですか」
「魔獣のね、被害が増えているの。実際王都にくる途中も何度も襲われたわ。ゴーレム騎士団のメンバーは強くなっているから、今のところ問題ないけど。自衛の為に覚えるのもありだと思って」
「それなら、ゴーレム使役と筋力強化も覚えたらどうかな」
「ええ、お願い。ティルダとセシリーンにもお願いできないかしら。二人共ゴーレムが使えなくて騎士団ではたまに寂しそうだから」
「分かった」
二人を呼んできて俺は話し掛ける。
「ゴーレム使役を覚えたくないか」
「また貴様は怪しげな術を開発したのだな」
「覚えたい。仲間外れにされるのは嫌なんだ」
「セシリーンはパスって事ですか」
「強くなる機会は逃さん」
三人にスキルを覚えるコツを教え、契約魔法を掛ける。
「そうそう、今回はフィルの友人を二人も連れてきたよ。ティルダ、二人を呼んできて」
マリリがそう言った。
誰だろう、心当たりがないな。
しばらくして、ティルダが二人をつれて戻って来た。
一人は冒険者の男性、もう一人は街娘だ。
冒険者の方はあれだゴーレムマスターだ。
名前は忘れたが。
街娘はどっかで会った記憶はあるんだけど思い出せない。
「二人共誰だったっけ? ゴーレム使いの方は覚えているが名前が出てこない」
「元ゴーレムマスターのケネスだよ。一ヶ月に一回対戦する話は忘れてないだろうな。もう一ヶ月以上経つんだが」
「覚えている。今日は暇だから付き合ってやるよ。で、そっち彼女は誰だったっけ」
「ひどい、髪の毛を切ってあげたのに」
「ああ、宿屋の娘だったよな」
「ヴェラよ。忘れないで」
「それで俺に何の用」
「王都で就職先を世話して欲しいの」
「うーん、思いつくのは俺の屋敷の使用人だな」
「あなた、使用人にして夜のお務めとかさせるつもりね」
「通いでいいぞ。普段は掃除をしてくれればいいから。後は使いとして城や貴族の屋敷や孤児院に行ってもらう」
「支度金は貰えるの」
「金貨一枚ぐらいでいいか」
「身体で返せなんて言わないわよね」
「言わないよ。ところで宿屋は何で辞めたんだ」
「変形スキルを持っていて芸術家志望なの。パトロンを王都で見つけるつもり」
「そうか頑張れよ。辞める時は前もって言ってくれ」
そして、対決するためケネスと食堂で待ち合わせた。
下りて来たケネスのゴーレム見て俺は驚いた。
「その虹色の輝きはオリハルコンじゃないか。よく買えたな」
「買える訳ない。オリハルコンメッキゴーレムだ」
「メッキかぁ。でもはったりには良いな」
「見掛け倒しじゃないぞ。防御力は相当上がってる」
「俺のゴーレムも見せてやる」
俺はアイテム鞄から魔力結晶ゴーレムを取り出した。
「ガラスじゃないよな」
「ガラスじゃない。性能は後のお楽しみだ」
王都から出て人気のない所に行く。
「よし、ここいらでいいだろう。ルールはこの前と同じでいいのか」
「問題ない。銅貨が落ちたら戦闘開始だ」
ケネスは銅貨を親指で弾いた。
銅貨は放物線を描き地面に落下。
チャリンという音と共にケネスのゴーレムは火の玉を放つ。
火の玉は魔力結晶ゴーレムの表面で溶ける様に消えた。
「それは、魔法防御!」
「じゃ、今度はこっちの番だな」
魔力結晶ゴーレムは目にも止まらぬスピードでケネスのゴーレムに迫りミスリルの剣を振るった。
ケネスのゴーレムは間一髪、剣で受け止め、剣からは火花が散った。
実はケネスと対決するに当たってイカサマというかズルをしている。
ゴーレム使役スキルは重ねがけをすると性能が上がる。
ただし、ゴーレムには魔力容量というものがあって無限に重ねがけは出来ない。
この辺の制約はだいぶ前に検証した。
そして、魔力結晶ゴーレムはその魔力容量が大変に大きい。
性能の五倍程の能力が現在出ていた。
魔力結晶ゴーレムは使えないと思ったが意外なところと役に立つ。
着ぐるみゴーレムとセットで運用できないのは痛いが、サポート役の魔力ゴーレムを傍らに控えさせれば問題ない。
これからはトレントゴーレムと共に主戦力にしていこうと思う。
戦いは接近戦になり、ケネスのゴーレムは防戦一方になった。
「ずるい、不公平だ。ゴーレムの性能が違いすぎる」
「次は正真正銘のオリハルコンゴーレムでも持ってくるんだな」
ケネスのゴーレムの剣は削られて段々細くなり最後は折れた。
実は俺のゴーレムが持っている剣には斬撃強化スキルが掛かっている。
「参った。降参だ」
「俺に挑むなら何か工夫をしないと」
「オリハルコンメッキは苦労したんだけどな」
「攻撃が魔法頼りだけじゃ」
「うーん、すぐに考えつくのはミスリルの剣にメッキ。駄目だ駄目だ、そのぐらいではどうにもならなそうだ」
ケネスは長考に入ってしまった。
俺も魔力に頼らない攻撃方法を模索しないと。
ふと思った並列システムスキルを何か生かせないだろうか。
並列システムの利点は沢山の思考ができるってところだ。
つまり複雑な事が出来る。
たとえば計算の問題を複数いっぺんに解くといった事ができる。
これを何かに応用できないだろうか。
後で考えてみよう。
ゴーレムの剣を強化するのは魔剣を使わせる事ぐらいしか思いつかない。
でも魔剣は人間が握っていないと使えない。
簡易魔道具なら起動した後にゴーレムに握らせる事はできる。
これも後で考えてみよう。
「ケネス、そろそろ行くぞ。そっちは何か考えついたか」
「秘密だ。次の対戦までに用意しておくぜ」
俺達はマリリ達の待つ宿屋に引き上げた。
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