第46話 ワイバーンの群れ討伐
冒険者ギルドの職員が慌しく動く。
俺は情報を聞き逃すまいと集音のスキルを発動させた。
どうやら、魔獣の群れがこの街に向かっているらしい。
魔獣の種類はワイバーン。
ドラゴンより格は落ちるが、Sランク魔獣だ。
「みなさん聞いて下さい。ワイバーンの群れがやってきます。決死隊を募るので希望者は名乗り出て下さい」
何人か名乗り出ると思ったが、冒険者はみんな知らん顔をしている。
失敗しても良いのならやってみるか
俺はフェミリさんを探し近寄り声を掛ける。
「俺が解決してやっても良い」
「えっ、無茶だわ」
「駄目なら逃げるさ」
「そんな無責任な事では困るわ」
「それは受け入れられない。失敗してもお咎めなし。報酬はSランク昇進だ」
「一人でワイバーンの群れを倒せるのなら実力は申し分ないわ。けど、失敗は困るのよ」
「準備に時間はさほど要らない。俺が先行するから、後から領主軍なり冒険者の決死隊なりを出撃させれば良い」
「そうね、それなら。確かにダンジョンのラスボスをソロで攻略できるのなら成功の目はあるのかもね」
「準備してもらいたい物がある」
「何を用意すれば良いの」
「オーガ級の魔石をありったけだ。もちろん報酬は払う。エリクサー三本で足りるか?」
「ええ、足りると思うわ」
俺はエリクサーと引き換えに沢山の魔石を手に入れ出撃した。
人が見えない森の中で魔力ゴーレムを量産する。
そして、魔石を全て対空ミサイルに作り変えた。
準備は整った。
オークの領域を奥深く進んだ所で前方に鳥の群れのような物を見つけた。
いやかなり離れているがワイバーンだ。
進路上で待ち構える。
段々と姿が大きくなり、大空を埋め尽くすほどになった時、対空ミサイルを次々にぶちかました。
火魔法のオレンジ色の軌跡を残し対空ミサイルは飛んでいく。
対空ミサイルを全て撃ち終わったので追い討ちとして魔力ゴーレムに火の玉を雨あられと撃たせる。
対空ミサイルがワイバーンに当たり始めた。
ボンボンと爆発音が連続してする。
ワイバーンは火に包まれ次々に落ちていく。
火の玉も幾つか当たり空中で息絶えたワイバーンもいた。
後は落ちたワイバーンにとどめだ。
とどめはもちろん死魔法。
音もなく死魔法のゴーレムがワイバーンに向かって飛んでいく。
ワイバーンの声が一匹また一匹と消えて行き、辺りは静寂に包まれた。
とりあえずアイテム鞄に屍骸を放り込む事で後始末とした。
解体は冒険者ギルドにお任せだ。
アイテム鞄を起動する為にワイバーンの魔石を使う事に。
それを取り出す時間の方が戦っている時間より長かった。
アイテム鞄を三つ満杯にして討伐は終わりを迎えた。
いやー、今回は楽勝だったな。
もう少し苦戦するかと思ったが、大したことはなかったな。
俺は街に凱旋する事にした。
途中、決死隊の面々と鉢合わせる。
「フィル君、逃げ帰ったのね。命を落とさなくてほっとしたわ。ワイバーンはどの辺りまで来ているの」
先頭を切っていたフェミリさんが話し掛けて来た。
「討伐しましたけど」
「えっ」
「なんなら一体、屍骸を出します。そこちょっと下がってください」
俺はアイテム鞄から一体のワイバーンを取り出した。
ドスンと音を立てて屍骸が地面に横たわる。
「本当なのね。どうやったの」
「そこは秘密です。秘術だと言っておきます」
「開拓破壊魔がワイバーン破壊魔になっちまったぜ」
「「「「ワイバーン破壊魔、ばんざい」」」」
一緒に来ていた冒険者が口々に言った。
「俺は無敵のフィルだ」
「ちげえねぇ。ワイバーンの群れを一人でやっちまうなら無敵だな」
「そうだ」
「そうだ」
「「「「無敵のフィル、ばんざい」」」」
最初に立てた目標が全て終わったような気がする。
気がかりは闇ギルドだ。
Sランクになって貴族に叙爵されるには王都に行かなきゃならない。
王都の闇ギルドは健在だ。
絶対なにか仕掛けてくるに違いない。
街に帰り、人身を落ち着かせる為に門の前にワイバーンの屍骸を並べた。
街の人は門の外へ出て、おっかなびっくり見て回る。
これ本当に街の人が安心する効果があるのかな。
逆効果な気もするけど。
街の人を横目にギルドの職員は総出で解体に取り掛かっていた。
肉は干し肉にうろこや皮などは防具に、爪や牙は装飾品になる。
その他にも薬の材料になる部位もあるとか、捨てる場所は殆んどないと聞いた。
日当分だけでもお願いとフェミリさんに泣きつかれ、決死隊の日当を俺が払う事になった。
断っても良かったのだが、ワイバーンの利益総取りだとやっかみを受ける可能性もある。
しぶしぶ了承しておいた。
対空ミサイルの材料代以上の代金は回収できた。
赤字でも問題ないのだが、いやー儲かった儲かった。
冒険者ギルドでティルダに出会った。
「ひさしぶり、Bランク試験以来だな」
「活躍は聞いているわ。おめでとう、Sランクになるのよね」
「ありがと」
「それでね、ちょっと相談したい事があるの」
少し暗い表情だ。
何か問題があるのかな。
禁忌に絡む事じゃなければ良いけど。
「じゃあ、どこかでお茶でも飲もう」
喫茶店に場所を変え、ティルダの相談に乗ることにした。
お茶の甘い香りがささくれた心を癒したのかティルダは静かに喋りはじめた。
「Bランクになったけど経験が足りないのよ。他のパーティに入ったけど、足手まといになるし。散々」
「じゃあ、Eランクぐらいの人とパーティを組めばどうだ」
「一回試したけど、実力の差がありすぎて馴染めなかったわ」
「俺が組んでやりたいけど、前衛はゴーレムで事足りてるしな」
「腕に差があっても文句を言わない人がいればいいのよ」
俺はお茶を飲みながら考える。
うーん、戦闘力は既にBランクだけど、その他の経験はFランクか。
素人の集団に放り込むのが一番良いんだが、その場合ティルダが突出するよな。
突出してもギクシャクしないパーティか。
難問だな。
そうだ、マリリの所に行かせたらどうだろうか。
女ゴーレム使いは冒険者じゃないから変なプライドや妬みなんて持たないだろう。
俺はカップをソーサーに戻して口を開いた。
「俺が警備の仕事を斡旋してやるよ」
「ありがとう。実力もだけどさ、スラム出身だから、それもあって馴染めないのよ」
「紹介する所では大丈夫だと思うよ。訳ありの人が多いみたいだから」
ティルダに紹介状を持たせ、俺はそろそろ王都へ旅立たないといけないなと考え始めた。
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