第44話 タイン商会の結末

 盗賊を討伐する日がやって来た。

 念の為、仮面を被り襲撃場所へ向かう。

 襲撃場所は森の中を道が通っている所だった。

 魔力視で盗賊が道の両脇に隠れているのを確認。

 盗賊に見つからないように迷彩スキルを使い隠れる。


 しばらく経つと馬ゴーレムに引かれた馬車五台が森にやって来た。

 アイテム鞄からゴーレム十五体を取り出す。

 そして、反対側に回り残りの十五体を出した。

 盗賊が道を塞ぐように現れたのを見て、いよいよだなと思った。


「大人しく商品を渡してもらおうか」

「商品を渡せば命は助けてくれるのか」


 盗賊と商人のやり取りが始まる。


「そんなことあるわけないだろう。お前達にはこれから商品の仕入れから売り先まで洗いざらい喋ってもらう」

「お前達ただの盗賊ではないな」


 俺のゴーレムは盗賊の背後から奇襲。


「うわ、このゴーレムどっから湧いて出た」

「ゴーレム使いが居るはずだ。見つけて殺せ」




 俺はゴーレムが盗賊を打ちのめすのを少し離れた所から見ていた。

 剣には布を巻いたから、殺傷力は低いはずだ。


 盗賊の中に一際大きな男がいる。

 凄腕なんだろう。

 ゴーレムが大剣の一振りで壊される。


 でも、魔力ゴーレムのスタンガン魔法には対抗できるかな。

 バチっと音がして大男が昏倒する。




 さて、他に腕利きはいるのかな。

 見ると短剣を両手に持ち機敏に動き回っている男がいる。


 水魔法の粘着を盗賊の足元に展開するように指示。

 盗賊は足をとられて倒れこんだ。

 すかさずゴーレムが剣で腕を叩く。

 武器を取り落としたのでゴーレムが縄で縛る。


 お次はっと、ゴーレムの剣を切り飛ばした男が目に付いた。

 切れ味から推測するに魔剣使いだろう。

 魔力ゴーレムを背後から近づけ、バチバチっとやってやった。




 大した腕をしてない盗賊は護衛に次々に討ち取られている。

 大勢は決したな。


 俺は迷彩を解き商人に声を掛ける。


「商業ギルド長の知り合いの者だ。街に着いたらギルド長に知らせて、盗賊は警備兵に突き出してほしい」

「ご助力、申し訳ない」

「良いんだよ。こっちにも事情がある」


 そう言って俺は迷彩スキルを使い現場を後にした。

 助けた馬車とかち合わないようにゆっくりと戻る。


 何人か盗賊を殺したが、門の所でかけられる罪状鑑定には引っ掛からない。

 ゴーレムを操っているのはライタだから、反応しないのか。

 もし、引っ掛かってもBランクのカードがあるから平気だ。


 素知らぬ顔で門を抜ける。

 後は吉報を待つだけだ。




 数日後、冒険者ギルドに伝言が入った。

 盗賊の証言でリステリーは失脚して捕まり、いよいよタイン商会の査察が始まる。


 俺はトバイロスと一緒にタイン商会の扉をくぐった。

 中はピリピリとした雰囲気で偉そうな男がトバイロスに詰め寄る。

 男はタイン商会の執務室で見かけた事がある。

 どことなくリステリーに似た雰囲気がある事からタイン商会の会長なのだろう。


「これはどういう事だ!?」

「会長、あなたの時代は終わったのですよ」


 会長の問いにトバイロスは答えた。


「皆さん始めて下さい」


 トバイロスの号令で後ろから来ていた職員が木箱を持って一斉に動き始める。


「このままでは終わらさんぞ。皆殺しだ。やれ!」


 用心棒が十五人ほど二階から降りてくる。

 俺は念の為連れてきた魔力ゴーレム三十体で用心棒を取り囲んだ。

 スタンガン魔法で一瞬のうちに崩れ落ちる用心棒。




「はっ、何をした?」


 呆気に取られた会長に商業ギルドの職員は縄をかけた。

 こうして査察は問題なく終わった。




 俺が出来る事は全て片付いたので、ルシアラの店に顔を出した。

「マリリさん、全て片付いたよ」

「そうなの、ギルドの口座凍結と取引の停止が解けるのね」

「はい、商業ギルド長が後は公正に処理してくれると思う」


 その時、乱暴にドアが開けられた。


「やってくれたな」


 汗だくで現れたのはネットだった。


「何の事」


 冷ややかに返すマリリ。


「破産したんだよ。おまけに警備兵に追われている」

「じゃあ、警備兵には協力しないと。罪人がここに居ます!」


 俺は声を張り上げた。


「ちきしょう。力ずくでなんとかしようと思ったがこう人が多いんじゃな。おぼえていろよ」


 近くにはセシリーンとルシアラなど数人が居るのにマリリをさらおうとしたのか。

 野郎、許せない。


 俺は風魔法で逃げて行く背中を殴った。

 ネットは無様に転がり注目を集める。

 ちょうど来ていた警備兵に捕まったのが見えた。

 ざまあみろだ。




 それから数日後。

 簡易魔道具がまた売れるようになったので、納入の為にルシアラの店にマリリを尋ねた。

「こんちは」

「悪いわね、無理言って。急に注文が入ったのよ」


「大変じゃなかったよ。作り貯めてたのもあるから。そういえば、ネットの訴えはどうなったの」

「ネットが破産したので取り下げられたわ。それに盗品売買の罪で捕まったみたい」

「へぇ」

「それでニエル商店を買い取ろうと思うのよ」

「潰れた所だと験が悪いんじゃ」

「あの商店はお父さんも働いていた事があるから。あの店で幸せな時を過ごした事もあったわ」


 思い入れや思い出があるのだろう。

 俺にはこき使われた思い出しかないが。

 いやマリリには親切にしてもらったな。

 少ないけど楽しい事もあった。


「マリリさんが良いのなら」


「それでね、買取の資金が少し足りないの」

「俺が出そうか」

「いいえ、自分でなんとかしたいわ。誰か投資してくれそうな人いないかしら」

「それなら、商業ギルド長に会うと良いよ。俺の名前を出せば話を聞いてもらえると思う」

「いつの間にそんな伝手を作ったの」

「そこは秘密」

「そうなの、いつか話してね」

「ああ、そうだね」




 俺は簡易魔道具をルシアラの店の倉庫に入れると共に魔木ゴーレム二十五体を置いた。

 そして、無事、ニエル商店はマリリの物となった。

 ネット親子は盗品売買の罪で私財没収と街からの追放になり、マリリから僅かなお金をもらうと捨て台詞を吐いて去って行ったと聞いた。


 タイン商会関係者は相当あくどい事をしていたようで、幹部はみな死刑に。

 こうして訴訟を巡る一連の騒動は幕を下ろした。


 俺はタイン商会の事が終わったので、もろもろを片付ける事にした。

 空き地に置いてある雑草の薬草化はすぐに終わった。

 次は難問のゴーレムポーションの使い道の検討だ。

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